本編
男は世界でも有名な外科医だった。
命を救った患者の数は4桁を超える。
男の手術を受けるために1年以上順番待ちをする必要もあるほどだ。
だが、その男が大切にしているのは家族と金だけだった。
手術も一番多く金を出す患者から順番にやっている。
周りからは守銭奴だの、金に汚いだのと陰口を叩かれているが男は気にしていなかった。
金を稼ぐために医者になったのだから、当然だという考えが男を支えている。
そんな考えを持っているせいか、見切りが早かった。
手術を開始し、状況を見た瞬間にダメだと思ったら何もせず手術を止めてしまう。
男の判断は的確で正しいのだが、やはり周りからは冷たい人間だと罵られてしまう。
だがそんなある日、ある火災事件が起こった。
死者が多数出たこともあり世間でも注目される。
その中で1人だけ生存者が発見された。
ただ、その生存者は全身火傷でほぼ虫の息の状態だった。
ほとんどの医者はこの生存者は助からないだろうと判断する。
だが、男は自分で名乗り出てこの生存者の手術を請け負った。
報酬が高いわけでもなく、見知らぬ人間だったにも関わらずにもだ。
手術中、周りの助手さえも何度も諦めかけたが、男は鼓舞し、全力を尽くした。
そして、誰しもが助からないと諦めていた生存者の手術を成功させたのだった。
数年後。
その生存者が殺されたことがニュースで報じられた。
男はそのニュースを見て、微笑み、手術を成功させて本当に良かったと心の底から思ったのだった。
終わり。
■解説
火災事件と言っていることから、この火事は「放火」によるものである。
そして、生存者とはその放火した「犯人」。
語り部が助けたことにより、犯人は法で裁かれることになり、「死刑」となった。
「死刑執行」のニュースを見て、語り部は喜んだのである。
この語り部がここまで必死になったということは、その火災で「家族」の誰かが犠牲になったのかもしれない。