本編
大学進学するタイミングで、一人暮らしをすることになった。
さすがに実家からは通える距離ではないので、当たり前なのだが。
というより、一人暮らしをしたくて、わざわざ、遠くの大学を志望したというのもある。
ただ、両親は物凄く心配そうで、受験のギリギリまで、地元の大学にするように説得された。
こういう過干渉なところが苦手で、早く一人暮らしをしたかったのだ。
最終的に両親が折れたのは、防犯がしっかりしたところに住むこと、というのが条件の飲んだことだった。
学費は両親に出してもらうこともあり、家賃は自分でバイトをして出すというのは最初から言われていた。
なので、防犯がしっかりとした家となると、当然、家賃が高いところになる。
それをバイトで賄うとなると、かなりハードに働かなくてはならない。
それに、もちろん、勉強をおろそかにするわけにはいかないから、ほとんど、大学とバイトを行き来するだけの大学生活になることを覚悟していた。
もしかすると、両親はそこまで読んだ上で、こういう条件を出したのかもしれない。
大学に行って、羽目を外し過ぎるのを懸念したということも、十分考えられる。
なので、正直、大学生活を諦めかけていた。
だが、そこに、奇跡が起こった。
家賃が安めで、防犯がしっかりしているマンションを見つけたのだ。
マンションの入り口は完全にオートロックが付いていて、各部屋のドアには映像付きのインターホンが付いている。
つまり、ドアを開ける前に、相手を見ることができるというわけだ。
最近は闇バイトとかがあって、物騒な世の中だ。
警察に化ける犯罪者もいると聞いた。
なので、両親からは配達で、しかも、ちゃんと頼んだ覚えがあるときにしか絶対に出ないこと、と念を押されている。
子供じゃないんだから、そこは言われなくてもわかってるつもりだ。
見知らぬ相手に、ドアを開いて対応するほど馬鹿じゃない。
とにかく、私は安くて、いい部屋を見つけ、かなり満足していた。
覚悟していたほどバイトを入れなくてもよくなったし、これで少しは大学生活を満喫できる。
そう思っていたのだが、引っ越して1週間経った今、状況がひっくり返った。
それは引っ越してきてから3日が過ぎたときだった。
部屋で寝ていると、どこからか足音がする。
隣や上の階の人じゃない。
もっと、身近な、自分の部屋から聞こえてくるような感じだった。
すぐに飛び起きて、電気を付けるが、もちろん、そこには誰もいない。
そんなことが3日連続で起こった。
さらには、買い物から帰ってきたら、物が移動しているような気がする。
はっきりと覚えているわけじゃないけど、私が絶対に置かないだろうという場所にリモコンがあったりした。
そのことを友達に相談したら、家賃が安くて、そんなにいい部屋なら、事故物件の可能性があると言われた。
この部屋が見つかった時は、嬉しくてあまり深く考えてなかったけど、言われてみれば変な気がしてきた。
そこで私は次の日に、不動産屋にそれとなく聞いてみた。
だが、そんなことはないとはっきりと言われてしまった。
そう言われてしまうと、気のせいだったのかもしれない。
そう思った時だった。
ふと、インターホンに記録が残っていることに気付いた。
記録は10日前からのものが残っている。
さっそく、記録を見てみた。
すると、そこには黒い帽子を被った、いかにも怪しい男が映っている。
男はドアノブをガチャガチャと動かした後、諦めて帰って行った。
次の日とその次の日もやってきて、同じくドアノブを捻って帰っていく。
だが、その日には映っていなかった。
どれも普通に郵便を届けに来た人だけしか映っていない。
だけど、それから3日後のことだった。
黒い帽子を被った男は、ナイフを持って現れた。
そして、なんとドアの鍵を開けて、部屋に入って行ったのだ。
私は思わず、悲鳴を上げた。
前の住人は、絶対に、この男に刺殺されたとしか考えられない。
だから、やっぱりこの部屋は事故物件なんだ。
ここは安くていい部屋だったけど、私はすぐに引っ越しすることを決意した。
終わり。
■解説
インターホンの記録は『10日前』のものから残っている。
その日と9日前、8日前は部屋に入らずに諦めて帰っている。
そこから3日後、つまりは5日前の映像で、男は部屋に侵入している。
そして、語り部は、この部屋に引っ越してから『1週間』しか経っていない。
つまり、男が部屋に侵入しているのは、語り部が『引っ越した後』である。
今、語り部の部屋には、ナイフを持った男がいる可能性が高い。
