これは会社の先輩から聞いた話。
あ、先輩の知り合いの話だって言ってたから、そのつもりで聞いて欲しい。
先輩の知り合いは4年前に結婚したんだけど、なかなか子供ができなかったらしい。
その人も奥さんも子供が欲しかったから、不妊治療も頑張ってたんだって。
そして、2年前、ついに奥さんが妊娠して、二人はとても喜んだんだ。
子供の名前を考えたり、どんなふうに育ってほしいとかを話し合ったり、それはもう本当に楽しみにしてた。
子供服やベビーカー、哺乳瓶とか、色々買い揃えて、子供が生まれる予定日を待ち望んでいたらしい。
でも、そんな幸せな時間は一気に崩れ去った。
流産したんだ。
その人はもちろんだけど、奥さんの落ち込みようは本当に酷かった。
それこそ、周りが声をかけれないほどに。
先輩も必死に励ましたようだけど、ダメだったらしい。
逆に「もう放っておいて」と叫ばれるくらい。
だから周りはそっとしておくことにした。
こういうのは時間が解決してくれるだろうって。
それから半年が立つ頃には、ようやく奥さんも落ち着き始めたんだ。
でもやっぱり、思い出しては泣くことも少なくなかったらしい。
だから、買い揃えていた子供服とかを捨てて、奥さんの目に触れないようにしようと考えたんだ。
奥さんにバレないようにこっそりと捨てていったとき、あることに気付いた。
ベビーカーの位置が変わっていることに。
そのベビーカーは奥さんが選びに選んで買ったものだから、さすがに奥さんに断らないで捨てることはできなかった。
しかも、子供部屋にしようと思ってたドアの前に置いてたから、無くなったらすぐに気付かれてしまう。
それで捨てれずに置いておいたんだ。
でも、そのベビーカーの位置が微妙にズレてる。
ドアの真ん前に置いていたはずなのに、気付いたら50センチくらい横に移動してるんだ。
何かのきっかけで移動したんだろうと思って、毎回、ドアの前に移動させてた。
でも、次の日にはまた同じく50センチくらいズレてる。
つまりは夜の間に移動してるってことになる。
最初は気にしてなかったんだけど、それが続くと無視できなくなった。
それと同時に、夜に、物音が聞こえるようになったらしい。
何者かが侵入してるんじゃないかって思って、戸締りもしっかりしたし、侵入された形式も見つからなかった。
それでもやっぱりベビーカーが移動してるんだ。
そこで思ったのが、流産した子供の幽霊が悪戯してるんじゃないかってことだった。
奥さんに言ったら、逆に喜んでしまいそうだったから、奥さんに内緒で除霊してもらうことにした。
生まれてこなかった子供の幽霊と一緒に暮らすなんて、奥さんのように嬉しいとは思えなかったから。
少し値段は張ったけど、結構有名な人にお祓いをしてもらった。
これでもう大丈夫だと思ったんだけど、それは甘かったんだ。
やっぱり、朝になるとベビーカーが移動してる。
だから奥さんにベビーカーを捨てたいと言ったんだけど、奥さんはもう少しだけ待ってほしいって言われたらしい。
でも考えてみたら、ベビーカーを捨てたところで、原因がなくなるわけじゃない。
根本的な解決にはならないことに気付いたんだ。
そこで次に考えたのが引っ越し。
引っ越しすれば解決するかもしれないと思って、引っ越しの準備を始めた。
そんなとき、引っ越しの手伝いをしてくれていた友達が気付いたんだ。
「床が傾いてる」って。
試しにパチンコ玉を置いたら転がったんだ。
それを見て、友達と一緒に笑い合った。
そんな単純なことだったんだって。
現実は小説よりも奇なりとは言ったものだけど、現実は意外と単純だったんだ。
それで引っ越しはやめて、ベビーカーにストッパーを付けた。
これでもうベビーカーは動くことはない。
それでこの話は終わり。
って言いたかったんだけど、ここで終わらないのがこの話の厄介なところなんだ。
次の日、愕然することになる。
なぜならベビーカーが移動してたから。
気が狂いそうになったみたい。
そりゃそうだよね。
せっかく解決したと思ったのに、まだ終わらなかったんだから。
だから取りやめた引っ越しを、やっぱりすることにしたんだ。
で、準備も完了して、いざ引っ越すという前の日。
奥さんが家で殺されたんだ。
それは昼間だったけど、仕事で家に奥さんしかいなかった。
一人でいたところを後ろから刺された。
でも不思議なのは、誰かが侵入したという形跡もなかったし、何かを取られた形跡もなかった。
争った形跡もなくて、警察は身内の犯行じゃないかって思っているらしい。
何度も取り調べで会社も休むことになったから、辞めちゃったんだよね。
もちろん、信じてるよ。
先輩はそんなことする人じゃないって。
でも、一体、誰が奥さんを殺したんだろう?
それに、動くベビーカーはなんだったんだろうね?
君はどう思う?
