本編
今の携帯は、下手なカメラよりもずっと綺麗に撮れる。
それもあってか、友達が写真にハマり始めた。
何かあるとすぐ写真を撮っていて、アングルや構図の研究もしている。
私が「SNSにアップすればいいのに」と言うと、「そういうのはなんか違うんだよね」と返された。
たしかに、今は炎上や身バレのリスクもある。
そう考えると、友達の判断は正しいのかもしれない。
「でも、せっかく撮ったのに私しか見ないのは勿体なくない?」
そう言うと、「確かに」と友達は頷いた。
それから、友達は急に写真を撮らなくなった。
やめたのかと思って聞くと、「やめてないよ」と笑って、こう言った。
「見てもらうための写真を撮るようにしたんだ」
見せてもらうと、そこには友達のお父さんがたくさん写っていた。
いろんなシチュエーションで撮られた、どれも良い写真だった。
数か月後、その友達のお父さんが亡くなった。
今まで元気だったのに突然死だったらしい。
お葬式に行くと、遺影には、あのとき見せてもらった中の写真が使われていた。
「いい写真だね」とみんなが口を揃えて言う。
私もそう思った。
終わり。
■解説
友達は「見てもらうための写真を撮るようにした」と言っている。
つまりは遺影に使うための写真だったということがわかる。
ということは、友達は近日中に父親が死ぬことを知っていたということになる。
