本編
その少年は殺人を犯した。
それは惨たらしい犯行で、動機も自分勝手なものだった。
だが、少年は未成年ということで軽い刑で済み、釈放される。
そのことが市民の怒りを買う。
法で裁けないなら、自分たちが少年に対して刑を執行しようと盛り上がったしまった。
そして、少年は大勢の人間に囲まれ、リンチされてしまう。
そんなとき、ある神父が現れた。
その神父は市民から人望があり、慕われていた。
神父はリンチされている少年と、リンチしている市民たちを見て、こう言った。
「この少年の罪を許せないという思いはわかります。しかし、この少年があなたたちに何をしましたか?」
神父の言葉に反論できる者はいなかった。
「たとえ、罪を償うべき人間がいたとしても、無関係の人間が償いをさせようとしても、それはただの犯罪で、私刑です」
市民たちの中の、少年への怒りは段々と静まっていく。
「この少年に直接恨みがある人間だけ残って、続けなさい」
一人、また一人とその場を去っていく市民たち。
そしてついに、少年と神父だけになった。
神父は少年に歩み寄る。
「大丈夫ですか?」
神父が声をかけると、少年は顔をあげて「ありがとうございました」と礼を言った。
神父はホッと安堵する。
そして神父はその場を後にした。
次の日。
少年は無残な死体となって発見された。
終わり。
■解説
少年が殺したのは神父の大切な人間だった。
そして神父は少年が生きていることに安堵した。
なぜなら、自分の手で少年に罪を償わせる(殺す)ことができるからである。
