本編
5年ぶりに実家に帰った。
俺と両親の仲は良好だと思ってたけど、帰ってみたら険悪になってしまっていた。
理由は全然帰らなかったのもあるけど、家族の葬儀に帰れなかったのが致命的だったみたいだ。
けど、仕事が忙しかったから仕方ない。
そもそもブラック会社で1ヶ月間、休みがないことだってあった。
そんな中で、家族の葬儀だから休みたいとは言えなかった。
だって、物凄く忙しくて、俺が休んだら同僚に迷惑をかけてしまう。
そう考えると、どうしても休みたいとは言えなかった。
ただ、今は後悔している。
何としてでも休みをもらうべきだったんだ。
家族を犠牲にしてまで、仕事を優先するべきじゃなかった。
リビングにいるのに、話しかけてもこない。
気まずい雰囲気が流れている。
そんな中、来客があった。
お隣の佐々木さんだ。
子供の頃は、よく遊びに行っていた。
俺はリビングに入ってきた佐々木さんに「ご無沙汰してます」とあいさつした。
けど、俺に目もくれず、ソファーに座った。
佐々木さんは母さんと仲がいい。
きっと、俺に対しての不満も話しているんだろう。
さすがにこんな空気の中、リビングには居られない。
立ち上がってリビングを出ようとしたときだった。
不意に佐々木さんが母さんに話しかけた。
「あら、あの写真。家族旅行してきたの?」
テレビの上にある写真立てには、一枚の写真が入っている。
「ええ。家族全員で行ってきたのよ」
その写真には両親と妹が写っている。
どうやら、もう俺は家族として思われていないということだ。
はあ。
ここにはもう俺の居場所はない。
こんなことになるなら、実家に帰らなければよかった。
終わり。
■解説
語り部はブラック企業に勤めていて、家族の葬儀にも帰れなかったと言っている。
なのに、今回は帰れている。
そして、母親は、語り部が写っていないのに『家族全員』と言っている。
つまり、語り部は既に死んでいる。
家族の葬儀というのは語り部の葬儀だった可能性が高い。
