〈前の話へ:バイト先の近くの公園〉 〈次の話へ:あなたのためなら〉
本編
俺の家には屋根裏部屋がある。
小学校の頃は、秘密基地みたいな感じがして、よく利用していた。
高校に入ってからは勉強で集中したいときとか、昼寝とかに使うようになった。
結構、狭いけど割と快適な空間で気に入っている。
唯一、気に入らないのが、屋根裏部屋に行くための階段が木製なことだ。
なぜか、ここの階段だけが木製で、使うとギシギシと軋む。
それが、なんとも嫌な音なのだ。
小学校の頃に気にならなかったのは、自分が使うときはこの音が出なかったからだ。
それがまた、自分専用の階段って感じで、お気に入りだったんだけど。
たぶん、40キロ以上になったら軋むんだと思う。
まあ、ダイエットしたとしても40キロ以下になることはないから、階段を補強するくらいしか対応策はないだろう。
とはいえ、それ以外は別に不満はないから使うんだけど。
大学に入ってから、友達にこの屋根裏部屋のことを話したら、気に入ったらしく、よく家に来るようになった。
おかげで、狭いったらない。
そんなあるとき、友達が3人集まったときに流行りも重なって、百物語をしようということになった。
怖い話を百話するってやつだ。
今考えたら、なんであんな馬鹿なことをしようと思ったのか、本当に不思議だ。
3人で百話だから、1人33話話さないとならない。
そんなのできるわけがない。
そのときはテンションが上がって、まともな思考もできなくて、とにかく始めてしまった。
最初はなんとかひねり出してたけど、後半はネットで調べて、ただ読み上げるだけみたいな感じになった。
それでも真っ暗で狭い部屋の中に蝋燭を灯して、怖い話をしていればなんか雰囲気が出てくる。
始めてから4時間くらい経った頃だったと思う。
いきなり、部屋全体がギシギシと軋み始めた。
さらに、スマホに非通知で電話がかかってきて、取ってみたら「呪ってやる」って女の声が聞こえたんだよね。
友達の方には、知らないアドレスから「みつけた」とだけ書かれたメールが来た。
パニックになって、すぐに百物語をやめたんだけど、それからしばらく経っても不可解なことが続いた。
ベッドで寝てたら金縛りになったり、誰かに見られてるような感じがしたり、もう散々だ。
百物語は屋根裏部屋でやってたのに、妙なことは俺の部屋で起こる。
だから、俺は自然と屋根裏部屋で寝ることが多くなった。
なぜか、屋根裏部屋にいると安心感があって、軋み音もしなくなったから。
一応、今度の土曜日にお祓いに行くつもりだ。
これで怪奇現象が治まってくれるといいんだけど。
それにしても眠い。
最近は夜にまともに寝られないせいで、昼間が物凄く眠い。
仕方ないから、大学をサボって屋根裏部屋で昼寝をすることにした。
そしたら、いきなり金縛りにかかった。
今まで屋根裏部屋にいれば、こんなことはなかったのに。
冷汗が噴出してくる。
そして今度はギシギシという軋む音がする。
階段で誰かが登ってくる気配もする。
幽霊か?
ゆっくりゆっくり、誰かが階段を登ってくる。
俺は何とか顔を動かし、階段の方を見た。
そこにいたのは赤ん坊だ。
ハイハイしながら、こっちにやってくる。
赤ん坊の幽霊、というわけじゃなく、1歳になる甥っ子だ。
そういえば、姉ちゃんが用事でこっちの方に来るから、家に寄るって言ってた。
甥っ子の可愛い姿を見て、緊張がほぐれたのか、金縛りも解ける。
俺は甥っ子を抱き上げ、姉ちゃんがいるリビングへと向かった。
終わり。
■解説
階段が軋むのは40キロ以上からである。
それなのに1歳の赤ん坊で階段が軋むのはおかしい。
軋む音は甥っ子から出たものではなく、怪奇現象の可能性が高い。