本編
僕はこの電車が好きだ。
好きすぎて、お小遣いを貯めて定期券を買ったくらいだ。
定期券があれば、何度でも自由にこの電車に乗れる。
本当に最高だ。
しかも今年からは自分で定期券を買う必要もなくなる。
なぜなら、高校に行くにはこの電車に乗る必要があるから。
つまり、お母さんから定期券代を貰えるのだ。
嬉しかった。
学校に行く時と帰るときにこの電車に乗る。
それだけで学校に行くのが楽しかった。
でも、それは長くは続かなかった。
3年生になったら、僕は学校で虐められるようになる。
最初はイタズラされるくらいだったけど、今では暴力やお金も取られるようになった。
本当に地獄だ。
僕は段々、この電車に乗るのが憂鬱になるようなった。
この電車に乗るということは地獄に向かうということだ。
嫌だった。
この電車が嫌いになることが。
でも、もう少しで1年が経つ。
そうすればきっと状況は変わるはずだ。
それまで我慢すればいい。
そう思ってたけど、ダメだった。
もう我慢できそうにない。
それから2ヶ月が経つと、僕をイジメていた奴が学校に来なくなった。
あれから1年。
僕はこの電車に乗って学校に向かう。
もう、この電車を嫌いになることはない。
今日もまた、僕は電車に乗る。
べっとりと赤い血が付いた定期券を使って。
終わり。
■解説
語り部は3年生と言っている。
イジメていた人間が学校に来なくなったのは卒業したからである。
では、なぜ語り部はまだ電車に乗って学校に向かっているのか。
血が付いた定期券を使っているということから、語り部は自殺し、幽霊となって電車に乗り続けている。