檀家

意味が分かると怖い話

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本編

私は去年、仕事の関係でちょっと田舎の町に引っ越してきた。
 
最初は何もない町で嫌気がさしていたけど、元々出かけるタイプじゃないし、休みも基本は家にいる私にとっては別に関係ないことだと気づいた。
今のご時世、ネット環境があれば問題ない。
欲しいものがあればネットで買えばいいのだ。
 
だから、特に不自由はしていなかったのだけど、一つだけ気がかりというか面倒くさいことがある。
 
それは周りの人が、ある寺の檀家に入るように言ってくるのだ。
催事のときなんかは檀家に入っていないと大変だと言うけど、そもそも、一人暮らしだし、実家は別の町だし、知り合いもいないので結婚式や葬式だって呼ばれないはずだ。
呼ばれるとしたら会社絡みだと思うし、その場合は会社の方で取り仕切ってくれるから、私には関係ない。
 
檀家に入ったら、毎月、会費を払わないといけないし、寺を建て替えるとかなったら、さらにお布施を取られる。
いいことなんてない。
だから、毎回、断固として断っているのだ。
 
別に断ったからといって、嫌がらせをされたりはしないけど、毎週のように勧誘されるのは本当にうんざりする。
一回、入らないといったなら、もう放っておいてほしいのに。
 
まあ、会費といっても月々2000円とかだし、そうそう寺を建て替えるなんてことはないから、入ってしまったほうが面倒がなくていいのかもしれない。
けど、なんか負けた気になるので、半分、意地になって断っている。
 
そうしているうちに1年が経ち、今年こそは勧誘をやめてもらえるだろうかと思っていたころだった。
久しぶりに、会社からボーナスが出て浮かれた私は、不覚にも泥酔するまで酒を飲んでしまった。
その帰り道。
私はよろけて、道の脇にあったお地蔵さんを倒してしまったのだ。
 
倒れた拍子に、首が取れてしまう。
焦った私は慌てて走って逃げた。
 
お地蔵さんの噂はすぐに町の中に広がったが、私が倒したとまでは噂になっていない。
結構、夜遅かったせいもあり、誰にも見られていなかったのだと思う。
 
私はホッと胸を撫でおろした。
だけど、それから1週間が経った頃だった。
 
夜に寝ていると、どこからか不気味な声が聞こえるようになった。
家の物が勝手に動いたり、テレビが勝手についたり、窓に内側から血ような手形がついてたりと、不可解なことが起こり始めた。
 
でも、こんなことを町の人に相談するわけにもいかない。
だから、私は自分で調べて、霊能力者に来てもらった。
 
見てもらうと、確かに、うちは呪われているのだと言う。
その呪いを解けないか相談したけど、この呪いは複雑でかけた人間にしか解けないらしい。
それは何人かの霊能力者に見てもらったときに同じことを言われたので、間違いないだろう。
 
どうしようもなく追い詰められて、私はうつ病になりかけた。
仕事にもまったく手がつかない。
会社を辞めて引っ越すしかない。
 
そう思っている時だった。
家にお坊さんがやってきた。
近くのお寺の住職らしい。
 
お祓いしましょうと言ってくれた住職。
でも、私は檀家になってないからというと、困っている人がいるのに、檀家とか関係ありませんと言ってくれた。
 
私は泣きながら、住職にお願いした。
すると住職は1時間ほど家でお経を唱えてくれた。
 
その効果は絶大で、その日からピタリと不可解なことは起こらなくなった。
 
私は住職に感謝し、お寺の檀家に入った。
檀家制度なんて嫌っていたけど、人の繋がりは素晴らしいものだと知ることができた。
 
終わり。

■解説

霊能力者は「この呪いは複雑でかけた人間にしか解けない」と言っている。
それではなぜ、住職はお祓いできたのか。
つまり、町の人間とグルになって、語り部に呪いをかけたのは住職ということになる。

 

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