迷惑な隣人
え?
白骨化してたんですか?
いえ、知らなかったです。
なんか、救急車とか警察が来てるなーとは思ったんですけど。
いやいや、隣って言ったって、顔を合わせたことないですからね。
ヤバい人だって思って、関わらないようにしてましたよ。
だって、一人暮らしなのに部屋から出てる気配がないんですから。
どうやって生活してたんですかね?
最近はさらに酷かったですよ。
深夜の1時くらいに、こっちが寝ようと思って電気を消したころに電気を煌々と付けるんです。
それまで、真っ暗にしてたんですよ。
それが、1時になったら電気をつけるんですもん。
しかも、カーテンを閉めないから、明かりがこっちの部屋にもろに入るんです。
何度か文句を言いに行こうと思ったんですけど、関わらない方がいいなって。
だから、こっちが厚手のカーテンを買いましたよ。
えっと、これは独り言だと思って欲しいんですけど……。
正直、いなくなってよかったと思います。
終わり。
■解説
隣人は白骨化した状態で見つかっている。
しかし、語り部は最近、電気の話をしている。
一体、誰が隣人の部屋の明かりを付けたり消したりしていたのだろうか。
ワニ
近所にワニを買っている家がある。
なんの仕事をしているのかわからないが、家はかなりの豪邸で庭も物凄く広い。
そんな大きな豪邸に、中年の男が一人で住んでいるのだ。
しかも、不愛想で他人と関わらろうとしない。
その上、ワニなんて狂暴な動物を飼っているのだから、近所でもその家は嫌われている。
そんな状態からか、その家に関わる黒い噂もある。
その家のワニが、良からぬ組織が殺した人間を食べて証拠隠滅を図っているというものだ。
現に、その家にガラの悪そうな人が入って行くの見たり、深夜に車が入っていくのを見たりしているという話もよく聞く。
とはいえ、そんな漫画みたいなことが現実にあるわけなんてないだろう。
こっちとしては飼っているワニが逃げ出さないことを祈るだけだ。
なんて考えていると、ワニではなく、飼い主の男の方が逃げたそうだ。
家はもちろん、お金など、何もかも捨てて夜逃げしたらしい。
こんな豪邸を捨てるなんて、金持ちの考えることはわからない。
終わり。
■解説
夜逃げするにしてもお金は必要なはずである。
それを残して逃げるのは違和感がある。
飼い主の男は良からぬ組織によって、口封じにワニに食べられたのかもしれない。
のぞき
日曜日。
散歩をしていると、路地裏で眼鏡をかけて、杖を持った男が上を向いていた。
不審に思い、私はその男に声をかけた。
すると、男はビクッと体を震わせた。
その反応を見て、私はこの男が良からぬことをしていたと確信し、男が見ていただろう場所を見上げた。
すると、女性が着替えている部屋が見える。
覗きだ。
私は男の腕を掴んで、通報しようとした。
だが、男は慌ててこう言った。
「待ってください。私は盲目なんです。だから見ようと思っても見えないんですよ」
確かに、男はずっと目を閉じているし、杖も視覚障碍者が持っているやつだ。
私は「あまり疑わしいことはしない方がいいですよ」と注意して、男の腕を離した。
男は何度も頭を下げながら、目を閉じたまま、杖で地面を軽く叩きながら歩き去っていった。
終わり。
■解説
目が見えないのであれば眼鏡をかける必要はないはずである。
つまり、男が盲目であるというのは嘘の可能性が高い。
勝率9割
授業中、ふとおならをしたくなる時がある。
今がまさにそれだ。
授業が終わるまであと15分。
とても我慢できる長さじゃない。
となれば、気づかれないようにするしかない。
音を出さないのはもちろんだが、身も出てしまう場合がある。
慎重にいかなくては。
……。
よし、成功だ。
さすが俺。
勝率9割を超えるだけある。
終わり。
■解説
勝率が9割ということは1割は負けたことになる。
つまり、語り部は何回かは漏らしていることになる。
戦場ジャーナリスト
男は戦場ジャーナリストであることに誇りを持っていた。
どんな権力にも負けず、真実を伝えることを信念に戦場を駆けずり回る。
一緒に組んでいるチームのメンバーも男と同様に信念を持っていた。
そんなあるとき、男は取材チームと一緒に、あるテロリストに捕まった。
そのテロリストたちは一度捕まれば終わりで、生きて帰ってきた者はいないと噂されていた。
だが、男はテロリストから解放され、国へと戻ることに成功する。
そして、男は世間に対して、ある記事を出した。
「テロリストを呼ばれているが、彼らは志が高く民衆の意思を代弁する組織だ。また、生きて帰ってきた者がいないという噂も嘘であり、全員解放されている。その証拠が私だ」
その記事を書いたのち、二度と男が戦場に向かうことはなかった。
終わり。
■解説
男以外のチームメンバーは解放されていない。
そうなると、全員が解放されているというのは嘘になる。
つまり、男はテロリストに屈し、自分の信念を曲げて、テロリストに有利になるような記事を書くことを条件に解放された可能性が高い。
多重人格障害
男は小さい頃から多重人格障害に悩まされていた。
現在、男の中には3つの人格が存在している。
男は自分が知らないうちに様々な問題を起こされ、絶望していた。
そんなある日、多重人格障害に詳しい医者に診てもらえることになった。
その医師は粗治療になるが、本来の人格以外を消すことができると話した。
男はその言葉に飛びついた。
医者にすぐに本当の人格以外を消してくれと頼んだ。
医者は了承し、人格を消すことに成功した。
そして、男の人格は消え去ってしまった。
終わり。
■解説
男は自分の人格が本来の人格だと思っていたが、実は作られた人格だった。
そのため、医者によって人格を消されてしまった。
地縛霊
最近、近所の廃墟に女性の地縛霊が出るという噂がある。
その地縛霊は怨念が強く、通りかかる人をあの世に連れて行くらしい。
いつも仕事帰りにこの場所を通るので勘弁してほしい。
その噂を聞いた2、3日はその場所を避けて帰るようにしていたが、遠回りになるので結局、いつも通り、この場所を通っている。
そんなある日。
残業で深夜に帰ることになった。
本当はこの場所を通りたくなかったが、早く帰りたかったので、仕方なくその場所を通るルートで帰った。
だが、そんなときに限って、悪い予感は当たるものである。
廃墟の前を通りかかったとき、女性がこちらに向かってくるのが見えた。
ここは廃墟以外なにもない。
普通の人間が通りかかるわけがない。
ヤバい。
気づくと俺は冷や汗をかいていた。
だが、落ち着いて見て見ると、その女性には足があった。
よかった。
幽霊じゃない。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
終わり。
■解説
この女性が幽霊ではないのなら、なぜ、こんなところにいるのだろうか。
そして、ここに出る幽霊は通りがかった人をあの世に連れて行くという噂がある。
もし、その女性が幽霊ではなく、普通に生きた人間だったらどうだろうか?
つまり、そこにはただの殺人鬼がいるだけである。
この後、語り部が無事に帰れた可能性は低い。
海の精霊
男は漁師をしている。
父親も漁師をやっていたこともあり、小さい頃からずっと漁のために海に出ていた。
ある日、ずっと海で漁をする生活をすることに、疲れ果ててしまう。
一体、俺は何のために漁に出ているのか、と。
毎日が同じ繰り返しの生活に、男は嫌気をさし、何か幸せを願いながらも海に出る。
そして、男はなんと海の精霊に出会った。
その精霊は男に言う。
「私についてくれば、幸せになれる。でも、それには全てを捨てる必要がある」
全てを捨てる。
男は逆に何も持っていないと思っているため、即決する。
男は了承して、精霊について行くことにした。
精霊の言う通り、男は幸せになった。
その証拠に、浜辺で発見された男は、笑みを浮かべていた。
終わり。
■解説
全てを捨てる。
それは人生そのものを捨てるという意味だった。
男は幸せな夢を見ながら、精霊に命を奪われてしまった。
探し物
あのー、すいません。
探し物をしているのですけど……。
腕に抱えてるじゃないかって?
あ、これは違います。
他の人のです。
私、やられたらやり返すタチなので。
え?
なんで、会話できるのかって?
さあ……。
そんなこと私に聞かれても……。
それよりも、見ませんでしたか?
髪が肩くらいまで長い女です。
そうですか……。
残念です。
他を当たってみますね。
終わり。
■解説
語り部は頭のない幽霊。
自分の頭を切り落とした相手の頭を抱えながら、自分の頭を探している。
また、語り部に話しかけられている方も、幽霊を相手に普通に受け答えをしているように見える。
話しかけられている方も幽霊の可能性が大きい。
危険なコース
男は小さい頃からスノーボードが好きで、父親にねだって毎日のようにスキー場へ連れて行ってもらっていた。
大学に行く頃になると、バイトをして自分で色々な場所のスキー場へ出かけるようになる。
しかし、その頃になるとほとんどのスキー場のコースを滑り尽くしていて、普通のコースでは満足できなくなっていた。
そんなあるとき、男はあるスキー場に危険で閉鎖されたコースがあるという噂を聞きつける。
そのコースでは何人もの死者も出ているらしい。
閉鎖されるほどの危険なコースを滑りたい。
男はそう考えて、その噂のスキー場へ行った。
噂通り、閉鎖されているコースがあり、男は立ち入り禁止の看板を越えてコースへと向かう。
そして、男はさっそくコースを滑り始めた。
だが、噂ほど危険なコースではなかった。
逆に平坦なコースだと感じるほどだった。
一人でコースを専用出来るからいいか、と思っていると、いつの間にか周りには何人かが滑っていることに気づく。
なんだよ。
もう、さっさと帰ろう。
男はため息をついて、スピードを上げた。
終わり。
■解説
平坦なコースなのに、死者が出るということは、それなりの理由があるはず。
そして、閉鎖されているコースに、語り部のように何人も滑りに来るとは考えるのは難しい。
もしかすると、語り部の周りを滑っているのは、このコースで死んだ者たちで、このコースを滑る人間を道連れにしようとしているのかもしれない。