意味が分かると怖い話 解説付き Part231~240

意味が分かると怖い話

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親子丼

かなり昔にカラーひよこっていうのが流行ってたのを知ってる?
私もお母さんから、そんなのがあったと話だけ聞いてただけで、実際には見たことがなかった。
 
でも、この前のお祭りの屋台の端っこにカラーひよこを売ってるところがあったんだよね。
それを見て、息子が欲しがってさ。
私も物珍しさに欲しいって思っちゃって。
 
ただ、普通に買うのもなんだから、息子に「好き嫌いを止めるなら買ってあげる」って条件を出したの。
うちの息子は6歳にしては、すごい好き嫌いがあって困ってたから、ちょうどよかったんだよね。
 
息子は少し悩んだ後に「好き嫌いはやめる」と約束してくれた。
 
約束通り、息子はあれほど嫌いだった卵を我慢して食べるようになってくれた。
というのも、私が「ひよこが大きくなったら、ニワトリになって、そのニワトリが生んだのが卵なんだよ」と言ったら興味を持ったというわけだ。
息子は「ぴよちゃんが生んだ卵を食べるんだ」とはしゃいでいる。
まあ、屋台で売られるひよこは大体がオスらしいんだけど。
そこはまだ内緒にしておこうと思う。
せっかく興味を持ってくれたんだし。
 
そんなある日、息子がこんなことを言った。
 
「親子丼が食べたい」
 
すごく嬉しかった。
息子が卵嫌いだったから、うちでは親子丼なんて作ったことがなかった。
それに、息子は卵が食べられるようになったと言っても、我慢して食べるっていう感じだ。
自分から「食べたい」なんてことを言ったのは初めてだったから、凄く嬉しかったのだ。
 
だけど、最近、鳥インフルエンザが流行ったとかなんとかで、卵がかなり値上がりしてる。
それもあって、卵自体はあまり買ってなかったんだけど、息子が食べたいというなら、高くても買うしかない。
 
そう思ってお店に行ったんだけど……。
 
やられた。
 
卵自体がない。
いつもは高いのが残っているのに、今日はその高いのさえ残っていない。
 
どうしよう。
息子には今日、親子丼にすると約束してある。
 
息子はちゃんと好き嫌いをしないという約束を守ってくれたから、どうしても今日の約束は守ってあげたい。
 
何軒かお店を回ったけど、どうしても見つけることができなかった。
 
こうなったら奥の手を使うしかない。
 
その日の夜。
私はなんとか親子丼を作って出した。
 
息子は喜んで食べていた。
夫の方は首を傾げてたけど。
 
とにかく、今日は約束を守れて、本当によかった。
 
終わり。

解説

語り部の夫が首を傾げていたということは、普通の親子丼ではない。
そして、語り部は卵を買うことができなかった。
しかし、語り部は『親子丼を作った』と言っている。
鶏肉とひよこの肉を使っても『親子』丼になる。
つまり、語り部は息子に買ってあげたひよこの肉を使って親子丼を作った。

 

瓜二つ

その女は平凡だった。
 
よく人からは『どこにでもある顔』と言われていた。
そのせいで目立つこともなく、影の薄い少女時代を過ごすことになる。
だが、そんな女に転機が訪れる。
 
整形。
 
どこにでもある平凡な顔ということは逆にいうと欠点がないということだ。
ちょっとした整形で変化していく。
 
そのことに女は整形にハマっていった。
そこで女はあるアイドルの顔を目指すことにした。
デビュー時からずっとファンで、ライブやどんなに小さいイベントでも必ず駆けつけているほど好きだった。
 
医者の話ではそのアイドルと骨格や顔の形が似ていると言われたことが本当に嬉しかった。
 
徐々にそのアイドルと似てくる自分に興奮する女。
 
そして、顔だけじゃなく、話し方や仕草も真似するようになった。
そうすることで、まるで自分がそのアイドルになったような気がして、ますますのめり込む。
 
ついには町で、そのアイドルと間違われて声をかけられるほどになった。
 
そのことで女の行動はエスカレートし、小さな会場でライブや握手会をやるようになる。
だが、そのことでそのアイドルの事務所に見つかってしまう。
 
しかし、そのときには長年アイドルのマネージャーでも、そのアイドルと女の見分けがつかないほど、そっくりになっていた。
 
事務所は女に注意して止めさせるのではなく、ソックリのユーチューバーとして売り出すことにした。
 
その事務所の企画は成功し、女は一気に人気ユーチューバーになった。
中には本物のアイドルよりも女の方が、人気があるなんて言うファンもいるほどだ。
 
ユーチューブの企画で、アイドルと入れ替わってライブをする企画や、ドラマやバラエティに出るなんてことをすることで、さらに人気を増やしていった。
 
それを知ったアイドルは引退を決意する。
偽物の方が、人気がある。
その屈辱に耐えられなかったのだ。
 
女は、自分が憧れていたアイドルを追い詰めたことにショックを受けた。

数日後。
女のユーチューブの動画で、突如、女はユーチューブを辞めると宣言して、動画をチャンネルごと削除してしまった。
 
女のファンは惜しんだが、数ヶ月も経つとほとんどの日は女の存在を忘れていく。
そして、その日以降、アイドルにソックリな女を見たという人は1人もいない。
 
女がユーチューブを辞めてしまったことで、アイドルの人気も落ちて行った。
だが、それでも細々と活動を続けている。
 
女は今、とても満足している。
 
終わり。

解説

女は憧れのアイドルに憧れ、そのアイドルのようになりたいと考えていた。
そして、周りから見分けがつかないくらい瓜二つになっている。
アイドルは偽物の方が人気になったことに屈辱を覚えたので、例え、女がユーチューブを辞めたところで、引退を撤回するのはおかしい。
それでは、なぜ、そのアイドルは活動を続けているのか。
それは女がアイドルと入れ替わって活動していると考えられる。
そして、『アイドルにソックリな女を見た人は1人もいない』ということは……。
アイドルはもうこの世には存在しないのかもしれない。
女は完全にそのアイドルそのものになることができ、満足しているのだろう。

 

失神チャレンジ

ちょっと前にさ、SNSや動画サイトで失神チャレンジっていうのが流行ったの知ってる?
なんか、自分が気絶するところを動画に取るんだってさ。

え? 何が面白いのかわからない?
 
あはは。そうだよね。
私もわかんない。
 
でも、なんていうのかな。
そういうノリ?
流行ってるから、とりあえずやってみる的な?
 
それはなんとなく私もわかるかな。
バズったらすごい嬉しいからね。
フォロワーとかもすごい増えるし。
 
でさ、私の友達もそれをやったんだよ。
 
あ、ごめん。
友達っていうよりは知り合いかな。
 
その子、すごい地味な子でさ、クラスでも浮いてたし、少しイジメられてたみたい。
よくわからんけど。
 
で、一発逆転のため、なのかな?
その子、ライブでその失神チャレンジをやったんだよね。
 
気絶する方法はベルトで自分の首を絞めるんだよ。
怖いよねー。
よくそんなことできるよなって思う。
 
で、実際、その子はカメラの前で自分の首をベルトで絞めたんだ。
結構、強く締めたんじゃないのかな。
その子、すぐに気絶しちゃってさー。
 
倒れた拍子に床に頭、思い切りぶつけてたんだよね。
 
……そうそう。
ライブだからさ、ばっちり動画に映ってたの。
頭から血なんかも出ちゃって。
 
で、ライブを見てた人が通報したみたい。
そこでライブが切れちゃってさ、場所の特定に時間がかかったらしいよ。
 
救助の人が辿り着いたときには1時間くらい経ってたんじゃないかな。
3人で必死に蘇生をやったみたいだけど、息は吹き返さなかったんだって。
 
ホント、怖いよね。
 
あんたも、流行ってるからって変なことやっちゃダメだよ。
 
終わり。

解説

ライブの映像で「倒れたとき」のことも映っていたと言っている。
しかし、一人でライブをやっているのであれば、気絶した後に床に頭をぶつけるところは撮れないはず。
(固定で撮ることになるはずなので、映像的には倒れた瞬間、映っていた子が画面から消えるはずである)
ということは、画角が変わったということを意味している。
つまりは失神チャレンジをやった際に、その子『以外にも』誰かがいたことになる。
 
そして、その子はクラスでも虐められてた。
もしかすると、失神チャレンジはイジメでやらされた可能性も高い。
 
さらに、語り部はライブの映像が切れているはずなのに、救助の人間が3人来たと、人数まで知っているのはおかしい。
イジメでその子に失神チャレンジをやらせたのは語り部なのかもしれない。

 

神隠し

その村ではたびたび、神隠しが起こる。
神隠しにあったのは、皆、6歳の子供ばかりだった。
そして、神隠しは必ずご神木がある、『聖地』で起こるのだという。
 
なので、親たちはいつも子供たちに『聖地』には近づかないように言いつけている。
子供たちも親の言いつけを守り、聖地には近づくことはなかった。
 
ある年、6歳の誕生日を迎えた女の子がいた。
その女の子の親は、神隠しにあるかもしれないから、村の外れにある神社に行ってお参りに行ってお願いをしてきなさいと言う。
親の言う通り、女の子は神社に向った。
 
しかし、そのお願いをすることなく、女の子は神隠しにあってしまったのだった。
 
終わり。

解説

女の子は神社に向い、お願いをする前に神隠しにあっている。
神隠しが起こるのは必ず聖地であるはずなのに、なぜ、神社で起こったのか。
それは神隠しが人為的なものだという可能性が高い。
また、親も神社に一緒に行くのではなく、一人で行かせているのもおかしい。
普通、6歳で神隠しがあるということであれば、心配で目を離さないはずである。
つまり、神隠し自体が村の中で行われている、口減らしか生贄にされているということが考えられる。
聖地に入るなと子供たちに言っているのは、そこに口減らしをした子供たちの死体が埋まっているか、生贄を捧げる何かがいるのかもしれない。

 

女遊び

男は容姿が良く、高校生になる頃には既に女遊びが酷い状態だった。
常に何股もかけ、付き合う女の子をひっきりなしに変えている。
 
そんな男のことをよく思わない人間は男も女も数多くいた。
しかし、それでも容姿がいいことと、手馴れているということもあり、男に引っかかる女は後を絶たなかった。
 
そして、男は何股もかけていることを隠すのが上手かった。
曜日でローテーションを組み、いつ、だれと、なにをしたかを頭にしっかりと叩きこんでいた。
なので、男は修羅場に巻き込まれることはほとんどない。
 
その日もローテーションにしたがって、女の家へと向かう。
男は女の家の合鍵を持っているので、自由に入れる。
 
中に入ると女は出かけているのか、家にはいかなかった。
帰って来るまで待とうかと思っていた時に、机に日記が置いてあることに気づく。
 
開いて読んでみると、そこには男に出会ったときのこと、日々のデートのこと、そして、どんなに男のことを愛しているかが書かれていた。
読み進めていくうちに、女は自分が浮気されているのではないかと気づいたようだった。
そして、女は「明日、確かめてくる」と書いていた。
 
次のページをめくる。
すると、こんなことが書かれてあった。
 
『昨日、あいつが他の女とホテルから出てくるのを見た。やっぱり私はあいつに騙されていたんだ。私はあの男を許さない。明日、あの男の家に行って、あいつを殺してやる』
 
男は青ざめ、すぐに女の家から飛び出す。
 
明日、家に女がやってくる。急いで遠くに逃げないと。
 
そう思い、男は荷物をまとめるために家へと戻った。
 
終わり。

解説

日記に書かれている「昨日」とは、男が日記を読んだ日から見て、前の日とは限らない。
ということは「明日」というのも、男が日記を読んだ次の日とは限らないことになる。
もし女が、この日記を書いたのが「昨日」であれば、女は「今日」、男の家に殺しに行くわけである。
男は逃げる準備をするために家に戻った時に女と鉢合わせをして、殺される可能性が高い。

 

淫行

私は高校2年生の時に担任の先生と不倫をした。
期間としては大体1年くらいだったと思う。
学校内やホテルで、先生と何度も行為に及んだ。
 
その当時、私は先生のことが大好きだったし、先生も私のことを愛してくれていたのを感じた。
愛し合う男女がそういう関係になるのはごく自然なこと。
だから、私はそのことが問題になるという感覚がわからなかった。
 
先生も、私が卒業したら結婚してくれると言っていた。
だけど、私と先生がホテルから出たところを目撃されたみたいで、学校では大問題になった。
 
私は親に強引に転校させられ、スマホも没収させられたことで先生とはそれ以来、音信不通になってしまった。
 
もちろん、私は今でも先生のことを愛している。
だから私は教員を目指した。
先生をやっていれば、いつか先生に会えるのではないかと思ったからだ。
 
そして、教員免許も無事に取れ、最初の配属先が決まった。
 
なんと、私の母校だ。
先生と出会い、愛し合った、あの学校。
 
私は運命を感じた。
 
配属が決まったその日、私は母校を訪れてみる。
放課後であまり生徒はいなかった。
 
懐かしいなと思いながら学校内を巡る。
 
そしたら、本当に奇跡が起こった。
教室から出てきた人物。
 
それは先生だった。
 
先生は驚いた顔で私を呆然と見ていた。
 
私は目から涙が溢れ出し、駆け寄って先生に抱き着いた。
 
4月からは先生と一緒に働けるんだ。
そう思うと、嬉しくて仕方がなかった。
 
終わり。

解説

生徒と淫行した教員が何事もなく、その学校にいるのは不自然である。
しかもその担任は不倫をしている。
つまり、「先生」は「教師ではない」可能性が高い。
少なくとも、「この学校の教師ではない」はずである。
では、教師でも「先生」がなぜ、この学校にいるのか。
なにかよからぬことをしていたのかもしれない。

 

心強い遭難者

慣れない登山なんてやめればよかった。
登山が好きな友達に「山ガールに会えるぞ」なんて言われて、本気にした俺が馬鹿だった。
 
山ガールどころか、登山中、誰ともすれ違いさえしなかった。
俺は山登りなんてほとんどしたことがなかったから、ただただしんどいだけだ。
 
そして、最悪なことに気づいたら友達とはぐれてしまっていた。
俺のペースに合わせてくれればいいのに、友達はスイスイと自分のペースで登っていった。
で、気づいたら遭難していたというオチだ。
 
さらに状況を悪化させたのが、歩き回ったことだ。
その場で待てばよかったのに、友達を追おうと適当に進んでいたら、道すら見当たらなくなった。
遭難したらその場から動くな、というのが鉄則らしいが、もう遅いだろう。
逆にこんなところにいたら、何年かかっても見つけてもらえないだろう。
 
せめて元いた道まで戻れればいいんだが。
 
そんなことを考えていたら、なんと声を掛けられたのだ。

「もしかして、はぐれられたんですか?」
 
声がした方向を振り返ると、20代中盤くらいの女性が立っていた。
装備を見る限り、登り慣れたといった感じだ。
友達の格好と似ている。
 
「そうなんですよ。変にウロウロしてたら、元の道もわからなくなっちゃって」
「ああー、わかります。なんとか、見つけてもらえそうな場所に行こうとしたら、返って迷っちゃうんですよね」
「そう。そうなんです!」
「あははは。私もそうですよ。山道って、素人にはわかりづらいですよね」
「えっと、あなたはなんでこんなところに?」
「え? ああ、実は友達とはぐれてしまって。心配で探してたんですよ」
「そうだったんですか。あの、この山には詳しいんですか?」
「詳しいって程じゃないですけど、もう30回くらいは登ってますかね」
「あの、本当にすみませんが、俺も一緒に着いてっていいですか? 完全に迷っちゃったみたいで」
「もちろんでいいですよ。そう思って声をかけたので」
「ありがとうございます」
 
この後、俺はその女性と一緒に山道を歩いた。
話も弾んで、辛い山道も難なく登れた。
 
「山ガールに会える」と友達が言っていたが、本当に会えたようだ。
こんな出会いがあるなら山登りについてきてよかったと思う。
 
だけど、俺は次の日。
女性に着いていったことを後悔した。
 
終わり。

解説

女性はこの山に30回ほど登っていると言ったが、詳しいわけではないと言っている。
また、女性は「友達とはぐれて、探している」と言っているだけで、「友達の方が登山ルートから外れた」とは言っていない。
そして、語り部は次の日に「後悔した」と言っていることから、女性は迷った友達を探しているのではなく、「自分が迷ってしまったので、道に詳しい友達を探している」可能性が高い。
つまり、語り部は遭難している女性に着いていってしまったことになる。
語り部と女性はこの後、山を降りれた可能性は低いと言えるだろう。

 

シビエ

一時期、シビエっていうのが流行った時期があった。
野生の鳥や獣を狩って食べるってものなんだけど、普通の人はなかなかできないよね。
 
テレビとかでも特集とかやってたんだよね。
その中でカラスだったか鹿だったかな。
刺身で食べると美味しいって紹介してて、それは危険だろって炎上してたんだよ。
 
そのときはあんまり興味はなかったんだけどさ、この前、熊肉を刺身で食べることがあったんだけど、それがすごく美味しかったんだよね。
そこから、シビエっていうよりは刺身にハマったんだよ。
 
色々な動物の肉を刺身で食べたりしてたんだけど、この頃は魚にハマってるんだよね。
釣った魚の刺身。
 
やっぱり活きが良いと本当に美味しいんだよね。
動物の肉と違って臭みがないっていうのかな。
一回食べたら病みつきになっちゃってさ。
よく釣りに行って、釣ったものをその場で食べたりしてるんだよ。
 
もちろん、これは俺の自己責任でやってるんだよ。
だから、真似してなんかあっても、俺は責任もてないから。
 
で、今日もそれで釣りにきたんだよね。
 
そしたら、ほら、見て。
今日はなんと、うなぎが獲れたんだよ。
珍しいよね。
 
じゃあ、さっそく、食べてみようかな。
 
そういえば、うなぎの刺身ってあんまり見ないよね。
美味しくないのかな?
でも、まあ食べてみればわかるよね。
 
それじゃ、いただきます!
 
終わり。

解説

うなぎの血には毒がある。
不整脈、衰弱、感覚異常、麻痺、呼吸困難が引き起こされる場合がある。
最悪、死亡することもあるのだ。
それを知らずに食べた語り部のその後は……。
帰らぬ人になったかもしれない。

 

九十九神

私の周りでレトロ風の物というのが流行っている。
レトロ風というのは、実際に古い物じゃなくて、古い商品をリメイクした物だ。
 
日用品なので、中古のものを使うのは抵抗があるけど、古い商品の新品なので気にせずにつかえるところが人気らしい。
 
私はあんまり興味がなかったんだけど、会社の同僚がやたらと勧めてくるからなんとなく気になってきた。
 
そこで休みの日にお店に行ってみた。
だけど気に入ったものがなくて、何店か回ってみたんだけどやっぱりいいのが見つからなかった。
 
諦めて帰ろうと思ったとき、ふと古いアンティークショップを見つけた。
中に入ってみると、結構、色々な商品が並んでいた。
 
アンティークショップということで骨董品のものしかないのかと思っていたけど、意外と新品のものも置いてあった。
 
そんなとき、一本の櫛が目に入った。
 
半月型の木で出来た櫛。
なんだかその模様がレトロ感がして、すごく私の心に刺さった。
 
でも、人が使ったものを使うのはやっぱりちょっと嫌だ。
櫛には値札も、新品のシールもついてない。
多分、骨董品なのだろう。
それでもやっぱり気になる。
新品の物だったら買いたいのにと思ったのだ。

だから、店のおじいさんにこの櫛がアンティークなのか新品なのかを聞いてみた。
新品だったら欲しいんですけど、これはどっちですか、と。
するとおじいさんは新品だと言った。
 
私は嬉しくなって、つい買ってしまった。
新品だったせいで、結構値段が高かったんだけど。
まあ、仕方ないかな。
 
さっそく、私は櫛を使ってみる。
使い心地も凄くいい。
いい買い物をしたと嬉しくなる。
 
でも、その日からなんか変なことが起こるようになった。
私の髪は肩くらいまでの長さなのに、櫛には明らかに長い髪が絡まるのを見つけるようになる。
その髪は排水溝にも絡むようになり、蛇口から赤い血のようなものが出るようになったりした。
 
極めつけには、寝てると金縛りになり、私の横で長い髪の女の人が鬼のような形相でこっちを見ながら髪を梳かしている。
 
そんなことが頻繁に起こり、私は精神的に病んだ。
お寺に行って、お祓いしてもらったけど、一向に状況は変わらない。
 
そんなあるとき、霊能力者がうちに来た時、私の櫛を見て驚いたような声を出した。
櫛には九十九神がついていて、このまま持っていると危ないとのことだった。
 
お気に入りだったが、私はその人に櫛を渡した。
 
それからは怪奇現象がピタリと止んだ。
 
もうレトロ風の商品には手を出さないと決めた。
 
終わり。

解説

九十九神は物を99年(長年)使い続けることで精霊が宿るというものである。
語り部は櫛を新品で買っているので、本当であれば九十九神が宿るはずはない。
つまり、アンティークショップのおじいさんは嘘をついて語り部にいわくつきの櫛を売ったことになる。

 

万能薬

世界的な規模でウィルスが多様化し蔓延するようになった。
さらに最近では人間のそもそもの抵抗力の低下が謙虚になってきた。
 
そのせいなのか、人々はちょっとした風邪でも無視できなくなり、ついに死因の第一位がウィルス性疾患となってしまう。
 
この状況を世界各国が危機に感じ、早急に対策を打とうと試みる。
 
そして誕生したのが、人の害となる、どんなウィルスでも体の中から消し去るという万能薬のような薬だ。
これにより世界でウィルス性の病気で亡くなる人間はほぼいなくなった。
 
そんな中、男はウィルス性の風邪にかかってしまう。
男には妻も子供もいた。
絶対に今、死ぬことはできない。
男はそう考え、ありとあらゆる民間療法を試してみるが、治ることはなかった。
 
日に日に、男は弱っていく。
男は妻に説得され、一縷の望みを持って、どんなウィルスでも消し去る薬を服用した。
 
数日後。
男の体の中からウィルスが消え去った。
 
終わり。

解説

人の害となるウィルスを消し去ると言っているが、『治す』とは書かれていない。
また、男は最後まで、この万能薬を飲むことを避けていた。
つまり、この万能薬を飲むと、ウィルスを消してくれるが、その強力な殺菌作用で飲んだ者を死に至らしめる可能性がある。
この男も、最後はウィルスが消えたとしか書かれていないところを見ると、薬によって死んでしまった可能性が高い。

 

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