正当防衛

意味が分かると怖い話

〈意味が分かると怖い話一覧へ〉

〈前の話へ:緊急事態〉  〈次の話へ:流れるプール〉

■本編

最近、女性を狙った変質者が出るらしい。
被害者は結構な人数になっていて、ニュースでも放送されているくらいだ。
 
ニュースに出ているコメンテーターは「一人で暗がりに行かないなど、自己防衛も必要」などと言っている。
正論だけど、それが出来れば苦労はない。
 
こっちには仕事もあるわけだし、駅から家までの間に街灯がないところだってある。
 
こういうときはいつも、なんで被害に遭いそうな側がわざわざ必死に注意しないとならないのかと思う。
悪いのは変質者なのに。
 
とはいえ、それも綺麗ごとだ。
こっちが悪くなくても、こっちが注意しないといけない。
 
なので、私は自己防衛としてナイフを持ち歩いている。
本当はスタンガンとかがいいんだけど、仕事が忙しくて、買いに行く暇がない。
 
犯人が早く捕まってほしいと思いつつも、今日も残業で終電ギリギリになってしまった。
 
人通りは当然、少ない。
というより、歩いているのは私一人だ。
 
恐らく狙われるのだとしたら、こういうタイミングだろう。
 
私は周囲を注意深く見渡しながら歩く。
すると、一人の男性が私の後をついて来ていることに気づく。
 
ヤバい。
 
私は走ろうとするが、足がもつれて転んでしまう。
 
その間にも男はドンドンと私に近づいてくる。
私は慌てて立ち上がり、早足で歩く。
 
すると後ろの男も早足になる。
 
そこで、普段は通らないような路地裏へと入ってみる。
普通の人なら、絶対にこんな道は通らない。
 
なのに男は普通に路地裏へと入って来た。
 
間違いない。
私を狙っている。
 
私は駆け出した。
男も走り出す。
 
男は後ろから「待て」みないなことを言っている。
 
必死に逃げるがその距離はドンドンと近くなっていく。
 
覚悟を決めるしかない。
 
私は自己防衛用に持ち歩いていたナイフを取り出す。
そして、立ち止まると、男は私の肩に手を置いた。
 
私は振り向きざまに男の腹にナイフを突き立てる。
 
男は血を吐いて、その場に倒れ込む。
 
危なかった。
ナイフを持っていなかったら、どうなっていたことか。
 
例え男が死んだとしても、正当防衛になるだろう。
 
そう思っていると、男の手に私の財布が握られているのに気づいた。
 
終わり。

■解説

男は、語り部が転んだ際に落とした財布を渡そうと後をついて来ていただけだった。

 

〈意味が分かると怖い話一覧へ〉

〈前の話へ:緊急事態〉  〈次の話へ:流れるプール〉