招き猫が招く者

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本編

それは台風が接近していて、風がすごい強い日のことだった。
 
俺は台風で休講にならないかと期待しながらも、大学に来てみたが講義が休みになることはなかった。
 
今日はレポートの提出日。
 
なんて言って、提出を誤魔化そうかと考えていると、真一が教室に入ってきた。
 
「おーっす」
「真一、レポートやったか?」
「もち」
「マジかー」
 
同じ、未提出仲間かと思っていたが、真一の方は裏切ってレポートを書いてきたようだった。
 
「真一、レポートできなかった理由を一緒に考えてくれ」
「んー。なんか変わったことがあったとかでいいだろ」
「なんだよそりゃ。雑過ぎるだろ。変わったことってなんだよ?」
「あー、変わったことといえばさー」
 
真一はこういうところがある。
なんていうか天然というか、思考が斜め上というか。
ただ、そこがこいつの魅力でもあるんだけど。
 
「今日、家を出るときにさ、玄関のところに招き猫が落ちてたんだよ」
「招き猫?」
「そう。手のひらサイズの」
「ふーん。で?」
「え? それだけだけど」
「オチなしかよ!」
「いや、縁起がいいかなって」
 
やっぱり、こいつの思考は斜め上だ。
普通、自分の家の玄関に知らない物が置いてあったら不気味がるだろう。
それなのに縁起がいいって……。
 
「あれじゃないのか? 泥棒の合図として置かれたとか」
「泥棒の合図?」
「そうそう。狙った家の前に目印として置くことがあるらしいぞ。まあ、普通は目立たないようにステッカーとかを貼るみたいだけど」
「あははは。俺の家に入っても盗むもんねーよ」
 
少し脅かしてやろうと思って言ったが、全然堪えてない。
 
なんてことを話してたら講義が始まってしまった。
結局、レポートの件は、「家に忘れてきた」というベタベタな理由で乗り切った。
明日出すように言われたが、どうせ、明日は台風で休講になるだろう。
そうすれば、次の講義は来週だから、十分レポートを書く時間がある。

勝った。
 
そう思ったのだが。
 
台風は逸れたわけでも通過していったわけでもなく、直撃した。
現に、現在、大雨が降っている。
 
それなのに、大学は休講にしない。
ホント、何を考えてるんだ!
俺は教授に対して怒りを覚える。
 
「いやー、雨、やべえな」
 
真一が教室に入って来る。
 
「ふざけんなよ! なんで、休講じゃねーんだよ!」
「お、俺に言われても……」
 
この怒りをどこにぶつければいいのかわからず、イライラしていると、真一がニコニコとこっちを見ている。
これは話を聞いて欲しいという合図だ。
そんな顔を見ていると余計イライラするのだが、仕方なく話を振ってやる。
 
「なんかあったのか?」
「ああ! あのさ、昨日の招き猫なんだけど」
「玄関のところに落ちてたやつか?」
「そうそう。今日、家から出るときに見たら、無くなってたんだよ」
「……だからなんだよ」
「で、代わりに手紙が置いてあったんだよ。『ごめんなさい。招き猫は私のです。回収させてもらいますね』って」
 
そう言って、手紙を渡してくる真一。
確かに、そう書いていた。
 
「いやー、これさ。ぜってー、女だよな。かわいい子かな?」
 
相変わらず、斜め上の思考だ。
可愛かったからといって、なんだっていうんだろうか。
招き猫は回収されたんだから、もう接点はなくなったはずである。
 
そんなことより、俺のレポートをどうしようかと思った時だ。
 
俺はあることに気づいた。
 
「おい! 真一!」
「へ? なに?」
「警察に行くぞ」
「なんで?」
「いいから!」
 
俺は無理やり真一を連れて警察へと向かった。
 
終わり。

■解説

ここの地域は『台風』が直撃している。
つまり、『風が強く』『雨』も降っていた。
 
それなのに、真一が手紙を持っていたのはおかしい。
もし『外』に置いてあったなら、手紙は飛ばされていたはずだし、仮にどこかに引っかかっていたとしても雨で濡れてボロボロになっていたはずである。
では、なぜ、手紙が(招き猫も)綺麗なまま残っていたのか。
 
それは玄関の『外』ではなく『内側』にあったことを示している。
 
つまり招き猫の持ち主は、『落とした時』と『回収するとき』の、少なくとも2回、真一の家に玄関から入って、出ていることになる。
しかも、手紙は真一が今日の朝に見つけたと言っている。
ということは、『真一が家にいて、寝ているとき』に忍び込んでいる可能性が高い。
 
真一は合鍵を持ったストーカーに付け狙われているようだ。

 

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