ホテルのフロントマン

意味が分かると怖い話

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本編

「ええ。そうですね。303号室のお客様は1ヶ月ぐらい滞在していました」
 
「え? 怪しい点ですか?」
 
「いえ、特になかったと思いますが……」
 
「逆に規則正しい方でしたよ」
 
「毎日、朝の6時にモーニングコールをして、7時にドアの前に朝食を洋食にするか和食にするかの札がかけられるんです」
 
「それをチェックして、8時に朝食をお持ちします」
 
「10時にチェックアウトされ、16時に戻られます」
 
「17時に軽食を注文されまして、20時に夕食をお持ちいたします」
 
「決まった時間に決まったことをされる規則正しい方だと、認識しておりました」
 
「前の日ですか? いえ、誰もお客様を尋ねられた方はいらっしゃいませんでした。よければ、監視カメラも確認されますか?」
 
「その日は平日でしたし、季節的にも観光シーズンじゃありませんでしたからね。他にはお客様はあまりいらっしゃいませんでしたね」
 
「ご遺体ですか? はい。私が最初に発見しました」
 
「7時にドアの前に札がかかっていなかったので、おかしいなと思ったのがきっかけでした」
 
「10時にチャックアウトされなかったので、スタッフが、お腹が減ったのではないかと、お部屋にコールしようとしたんです」
 
「その時は私が止めました。何か事情があるのだろうと思いまして」
 
「17時を過ぎても軽食を注文されませんでした。今まで、1度も決まった時間に決まったことをされなかったのは初めてでしたから、ここで私が部屋にコールさせてもらいました」
 
「はい。そのときは出られませんでした。これは一緒にいたスタッフにも確認できます」
 
「もしかすると疲れて寝ていらっしゃるということもありますが、一応、部屋に向かせていただきました」
 
「ノックしてみたのですが、中から物音一つしませんでした」
 
「そこで失礼ながら、持っていた合いかぎを使わせてもらい、中に入らせていただきました」
 
「……はい。私が発見したときは、既にお客様は亡くなっておりました」
 
「睡眠薬ですか? いえ、うちでは用意しておりませんから、お客様が持ち込んだんじゃないでしょうか?」
 
「あの、部屋はいつ使えるようになるのでしょうか?」
 
「ええ。お客様は外傷もなく部屋には特に汚れがないので、できれば早く使いたいところなのですが……」
 
「はい。何かあれば、ご協力しますのでおっしゃってください」
 
終わり。

■解説

語り部が、客が亡くなった日の動きが怪しい点がある。
まず、その日の朝にモーニングコールをしなかったこと、昼にスタッフが連絡しようとしたときに止めたことがある。
自分が部屋に行くときのきっかけは、1ヶ月間同じ時間に同じことをしなかった理由であるにも関わらずである。
そして、なにより、語り部は睡眠薬で死んでいて、外傷がないにも関わらず、一目で死んでいると見破っている。
この語り部が客の死に何かしら関連しているのは間違いないと言えるだろう。

 

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