消毒用アルコール

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本編

俺は個人で洋食店を営んでるんだけどさ。
前まで、例の感染症のせいで、客足がぱったりだったんだよね。
 
でも、国からはなんだかんだいって補助金とか出てたからさ、なんとかやりくりできてたんだよね。
っていうか、補助金のおかげで儲けられたっていうか、一種のバブルだったんだよ。
だってさ、働かなくても、お金が出たんだからさ。
そりゃ、調子に乗って使っちゃうよ。
 
今考えてみれば、あの分、貯金とか設備投資に使ってればなーって思うよ。
まさか、補助金に税金かかるなんて、思ってもなかったからさ。
 
今となってはその補助金の税金のせいでヒーヒー言ってるよ。
 
でさ、感染症が収まったからっていって、いきなり前のときと同じくらい客足が戻ってくるかっていうと、そうでもない。
なんつーか、みんな、外食しないルーチンができっちゃったみたいなんだよ。
 
わかりやすく言うとさ、休みの店が多いときに、弁当派になった人は、感染症が収まったら全員外食派に戻るかっていわれたら、そうでもないんだよね。
そのままの流れで弁当派のままって人も多いみたい。
 
だから、今でも当時の客足は戻ってきてない。
 
でも、お店は維持していかなきゃならないんだよ。
じゃあ、どうするかっていうと、経費を削減するしかないんだよね。
できるところから節約していくことにしてる。
 
例えば、消毒用のアルコール。
感染症が収まってきて、マスクとか必須じゃなくなっても、消毒用のアルコールの文化はまだまだ消えない。
 
今でも置いてるところ多いでしょ?
 
あれもさ、実は地味に痛い。
材料ってわけじゃないから、値段に入れるわけもいかないしさ。
ホント、マジで止めてほしいよ、あの文化。
前なんか、そんなことしてなかったでしょ。
 
なんて愚痴を言っていてもしょうがないんだよね。
 
で、この消毒用のアルコールなんだけど、友人の知り合いが務めていた工場が潰れたとかいってたんだよね。
その話を聞いて、もしかしたらなーって思って「あること」を聞いたら、ビンゴだったよ。
 
機械を洗うアルコールがめちゃくちゃ余ってるんだってさ。
だから、それをタダ同然でもらってきた。
 
これでしばらくの間、消毒用のアルコールには心配いらない。
 
こんな感じで、他にも色々と節約してるんだよね。
 
いやー、お店を経営するって、やっぱり難しいよ。
 
終わり。

■解説

手の消毒に使うアルコールはエタノールである。
そして、機械の洗浄に使うアルコールはメタノールである。
同じアルコールでもメタノールは劇薬で、取り扱いには十分な注意が必要である。
メタノールは吸引すると眩暈や吐き気、頭痛などを引き起こし、最悪、失明や死に至る場合もある。
そんなものを店の消毒用のアルコールとして使っているこの店は、のちに恐ろしい事態になることは想像に難くない。

 

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