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本編
私の友人に、凄くグルメな女の子がいる。
彼女の家はお金持ちだったこともあり、小さい頃から美味しい物を食べていたということがあると思う。
中学校のときには、すでに世界三大珍味も食べ飽きたと言っていた。
私なんて1つも食べたことがないのに。
高校生になったとき、彼女と一緒に外食に行くと「美味しくない。普通の味」なんて言って、そのお店の評価をしていた。
しかも、出された料理の食材も完璧に当てるなんてこともしている。
そんな性格だったからか、彼女にはあんまり友達はいなかった。
一番仲がよかったのは私だと思う。
私も彼女の「お店の評価をする」ところはあまり好きじゃなかったけど、話も合ったし、一緒にいて楽しかった。
あるとき、彼女に自宅に招待された。
行ってみると、料理を出された。
それはすごく美味しくて、私はびっくりした記憶がある。
すると彼女はなんと「私が作った」のだと言っていた。
彼女が言うには「お店の味には飽きたから自分で作ってみた」らしい。
それからはよく、家に招待されて、彼女の手料理をご馳走になった。
彼女の料理は本当に美味しいし、珍しい料理も食べれたから、彼女に誘われるのを心待ちにしていた。
それから数年たった時、私はさらに驚くことになる。
なんと、彼女は親に別荘を作ってもらって、そこで食材を育て始めたのだ。
牛、豚、鶏、羊。
数は多くないが、どれも品質のいい動物を揃えていた。
やはり、こだわって育てているせいか、とてもいい食材になるらしい。
実際、彼女の料理はさらに美味しくなった。
私はお店でも出せばと提案したが、「そういうんじゃないから」と笑った。
あくまで自分で美味しい物を食べるために頑張っているとのことだった。
大学を卒業後、しばらく彼女とは疎遠になった。
結婚をし、そろそろ子どもが欲しいと思ったとき、なかなか子供ができなかった私たちは養子を迎え入れようと思い、孤児院へと行った。
なんと、そこで彼女と再会した。
会っていない空白の時間を埋めるように、私たちはたくさん話をした。
彼女は独身で、今も料理を続けているそうだ。
今は栄養学を勉強しているそうで、バランスのいい料理を教わった。
野菜が嫌いでも食べられるサラダや、血液をサラサラにする料理なんかも教えてもらった。
彼女は、昔は肉料理ばかり作っていた印象だったが、サラダや魚料理なんかも作っているのだという。
そしてまた、彼女の家に招かれた。
久しぶりに食べる彼女の料理。
今まで食べたことのない肉料理だった。
どんな食材を使っているのかさえわからない。
でも、本当に美味しい。
私はまた、お店を出せばと言ったが、やはり「自分が美味しい物を食べたいだけだから」と笑っていた。
彼女との友情は学生時代よりも強くなっていた。
一ヶ月に2回くらいは彼女と会うくらいになっていた。
そんなある日。
彼女の家に行くと、彼女は暗い顔をしていた。
どうしたのかと聞いたら、痛風になってしまったのだという。
彼女は「やっぱりバランスの取れた食事が大事だね」と言った。
終わり。
■解説
彼女は栄養学を学び、バランスのいい料理を知っていた。
ならば、なぜ、痛風になったのか。
それは『彼女自身』は偏った食事をしていたから。
では、『バランスのいい料理』を食べていたのは『誰』だったのか。
ここで彼女が『食材にこだわっている』ことがポイントになる。
そして、語り部が彼女と再会したのは『養子を考えいるときに訪れた孤児院』である。
つまり、彼女は子供を引き取り、育てて『食材』にしていた可能性がある。
そして、語り部はその『食材』の料理を食べているということになる。
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