本編
男は猟をするのが趣味だった。
狩猟期間になれば、猟銃を持って山に入る。
そして、シカやイノシシを撃って帰ってきては、周りの人たちに振舞っていた。
あるとき男は山で熊に遭遇した。
いきなり襲われたので、男は持っていた猟銃で熊を撃ち殺した。
だが撃ち殺した熊は子供を連れていた。
男は無視して山を出ようと思ったが、見捨てることが出来ず、子熊を連れて帰ることにした。
幸い男は山の近くに別荘のような家を持っていて、そこには滅多に人はやってこない。
そこに檻を作ってその中で育てることにした。
ある程度大きくなったら、山に帰そうと思っていたようだ。
数年が経ち、熊はかなり大きく育った。
その頃になると熊の食べる量も膨大になり、男の経済力では維持するのが難しくなってきていた。
そのため、熊はいつも空腹状態になっている。
そこで男は熊を森に帰すことにした。
しかし、熊は森へと帰らずに町に降りて行ってしまった。
食べるために人を襲い、3人の人間が亡くなった。
一度、人間を食べた熊は人を襲い続ける。
町はすぐに猟友会に頼んで、熊を射殺してもらった。
多数の死傷者を出した獣害事件により、町で猟に出掛ける人はほとんどいなくなってしまったのだという。
終わり。
■解説
逃げた熊は町に降りた時点で「食べるため」に人を襲っている。
子熊の状態から育てられたはずなので、「人を食べた」ことはないはずである。
では、どこで「人を食べた」のか。
それは山に帰そうと「檻を開けた」ときだと考えられる。
つまり、空腹だった熊は育ててくれた男を襲って食べてしまったのである。
また、熊が町へ降りて行ってからは、男のことは一切出てきていない。
その時点で死んでしまっているからである。