映画

意味が分かると怖い話

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本編

俺は今、映画を見ている。
 
この映画はある意味、話題作だが客は全然入っていない。
宗教を批判するような描写があったことで、その宗教から上映の差し止めがあり公開が見送られていた。
 
それが近年、規制が緩くなったのか、その宗教の影響力が下がったのか、この映画が公開されることになったのだ。
 
ただ、とはいえ問題作であることは変わらないため、田舎の映画館のみで上映されるという流れになったようだ。
 
それにしても、本当にガラガラだ。
平日だからとか、田舎だからとかはあまり関係ないだろう。
 
全然客がいない理由は単純につまらないからだ。
アクション映画のはずなのに、30分が過ぎても一向にアクションが始まらない。
客の中には寝ているやつもいるが、それは仕方のないことだろう。
実際、俺も眠くなってきていた。
 
時間の無駄だし、帰るか。
 
そう思った瞬間だった。
一発の銃弾の音と、数人の悲鳴が上がった。
 
スクリーンを見る。
そこには銃を持った男が立っていた。
 
威風堂々とした男はニヒルな笑みを浮かべている。
俺を含めて、観客はその男に釘付けになった。
 
まさかの急展開。
こんな展開、誰が予想できただろうか。
 
もし、映画評論家が見たら、ナンセンス、現実離れしている、なんて批評するかもしれない。
だが、俺にとっては最高の展開だった。
 
映画を見に来てよかった。
 
心の底からそう思った。
確かに強引で脈略もない、この展開を嫌がる人間がいるかもしれない。
 
いや、大半の人間は顔をしかめるだろう。
だけど、俺にとってはどんな名画よりも興奮した。
面白いと思った。
 
「おい! いい加減にしろ!」
 
青年がいきなり、男に向って叫んだ。
男は肩をすくめた後、平然とその青年に銃を向け、そして、撃った。
 
青年が倒れる。
 
その場が静まり返った。
観客は固唾をのんで男の動向を見守る。
 
すると、突然、男は懐からダイナマイトを出した。
昔ながらの、細長く、導線の付いた古臭い、いかにもというダイナマイトだ。
 
その光景はかなり滑稽で、どこかコメディ的だった。
観客の中でも、吹き出すやつもいた。
 
実際、俺も笑っていたのかもしれない。
 
男はマッチを擦り、導線に火をつける。
バチバチと火花を立てながら、導線の火はダイナマイトへと近づいていく。
 
さすがにこんな展開はないだろ。
あまりにもお粗末だ。
現実離れしすぎている。
 
俺の中の興奮が一気に覚める。
いつの間にか、汗が冷たいものになっていた。
 
一瞬の閃光と爆発音が響く。
 
どうやら終わりのようだ。
辺りが暗くなっていく。
 
「くそっ!」
 
俺は小さく舌打ちした。
 
終わり。

■解説

男が乱入してきたところから、映画ではなく現実で起きた出来事になっている。
映画館に乱入してきた男は、宗教に関連しており、抗議のつもりで映画館を襲撃した。
いわゆる自爆テロを行ったのである。
そして、語り部はその爆発に巻き込まれて死んでしまった。

 

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