■本編
その国は内戦によって経済がガタガタになってしまった。
このままでは全ての国民が飢えて死んでしまう。
そんな危機的状況に、ある国から援助をしてもよいという打診があった。
早速、交渉の場を用意し、相手の国の外交官を迎える。
その際、相手の外交官は美食家ということを聞きつけ、その国は国内の一流のシェフたちと一流の高級素材を用意した。
外交官に料理を美味いと言わせることができれば、交渉は成功したも同然という情報も得ていた。
そして、外交官は肉が好きだという情報も手に入れている。
そこで今回の料理の目玉は、高級品の牛ヒレのステーキにした。
滅多に手に入らないと言われている貴重な肉は、必ず上手いと言わせられる自信があった。
そして、当日。
相手の外交官を出迎えた際に驚愕し、頭を抱えることとなる。
それは、聞いていた報告よりも、相手の人数が一人多かったのだ。
相手の外交官は「妻も来たいと言い出してね」とさっと言った。
相手の気を悪くさせるわけにはいかない。
快く迎えることにする。
しかし、材料が足りない。
他の料理はなんとかできそうだったが、メインの牛肉だけはどうしようもない。
慌てて、各所に連絡して追加で手に入れようとしたが、無駄だった。
それどころか、牛肉はおろか、他の肉さえも手に入らなかった。
しかし、今日のメインは肉料理だと伝えてしまっている。
今更、肉以外を出すわけにはいかない。
交渉が始まり、料理を出していくことになる。
このままでは交渉は失敗してしまう。
そう考えたこの国の外交官はある決断をした。
料理を出す時間がかなり遅くなってしまい、相手の外交官を少し、苛立たせてしまったが、料理を出した途端、その苛立ちは消し飛んだ。
交渉は成功し、無事、相手の国から援助を受けられることとなった。
そして、相手の外交官は去り際にこう言った。
「実に美味しい肉だった。これまで食べたことがない肉だったよ」
終わり。
■解説
相手の外交官は肉好きな上に美食家であること、そして、その高い地位からほぼすべての肉を食べたことがあるはず。
しかし、外交官は「食べたことがない」と言っている。
そして、「料理を出すのが遅くなった」のはなぜなのか。
それは「料理を作る人間が減ったから」である。
つまり、この国の外交官はシェフの一人を食材として使用した。