■本編
俺は特定屋をやっている。
最近、流行りのアレだ。
依頼があれば、SNSでアップされている写真から個人の情報を特定するっていうもの。
でも、誰でも彼でも受けるわけじゃない。
ターゲットが美人のときの場合のみ受ける。
それは自分が美人の情報を得たいから、というわけじゃない。
その逆だ。
俺は美人が嫌いだ。
人を見下し、騙し、平気で弄ぶ。
俺も随分と酷い目にあった。
これは復讐の意味を込めているのだ。
大体、特定屋を利用されるということは、その人に何かやったってことだ。
つまり、自業自得ってわけ。
俺みたいに慎ましく生きていれば、誰にも恨まれることは無い。
SNSに色々アップしても問題なし。
でも美人はダメだ。
何気なくアップした画像から、個人情報を丸裸にされる。
そして、今日もこのアカウントの特定をお願いしますって依頼が来る。
自分の美人への復讐を兼ねながら、お金を稼ぐ。
実に俺にピッタリの仕事ってわけだ。
そんなとき、少し変わった依頼が来た。
大量の写真の画像が送られて来て、その写真のおおよその場所を特定して欲しいというものだ。
普通はアカウントを指定してくるものだが……。
さらに変なのはその画像が加工されているってところ。
恐らく、そこに人物が写っているのだろうが、そこにモザイクがかけられていたり、消されていたりしている。
でも、これじゃ、相手が美人かどうかわからない。
依頼を受けるかどうかの基準が判定できない。
相手は結構な金額を提示してきたが、俺は金で動くわけじゃない。
ポリシーがある。
俺は相手の顔が知りたいと送った。
だが、相手はこの人の情報は、俺だけが知りたい。
あなたにも、知られたくないと返ってきた。
それなら依頼を受けることはできないと返すと、渋々、その人の画像が送られてきた。
確かに物凄い美人だ。
独り占めにしたい気持ちもわかる。
俺は依頼を受けると返答した。
この依頼は難航した。
人物のところが加工されていたから、純粋に風景からヒントを得るしかない。
実は、結構、人が写っている部分からもヒントを得られることが多いのだ。
だけど、たまには、こういう縛りも面白い。
俺は一週間をかけて、その場所を特定した。
なんと、俺の近所だったことに、少し驚いた。
まさか、近所にあんな美人が住んでいたとは。
そして俺は、依頼主に場所を知らせて報酬を受け取った。
次の日の仕事帰り。
俺が最寄駅から出た時だった。
いきなり、美人の女が目の前に立った。
見たことがあるような気がするが、誰だかわからない。
いきなり女はナイフを取り出し、俺の腹を深々と刺した。
周りからの悲鳴と、薄れゆく意識の中、女の「あんたのせいで……」という言葉を聞いた。
終わり。
■解説
依頼人は最初、画像の人物を加工して語り部に送ったが、後に「人物だけ」の画像を送っている。
結局はターゲットの顔を語り部に教えたのに、加工前の画像を送り直していない。
加工で消されたところの人物と、個別に送った人物は同一ではない。
消されていた人物は「語り部自身」が写っていた。
つまり、語り部は、依頼されて「自分が住んでいる場所を特定」していた。
そして、依頼者は、語り部に特定されて、何かしらの被害を受けた女性。
女性は恨みによって、語り部を刺した。