大学生になって、初めて一人暮らしをすることになった。
俺は結構、ズボラな性格で、小さいころから何かと母親が世話を焼いてくれていた。
俺にとってはそれは普通のことで、友達が、母親に干渉されるのがウザいと愚痴を言っている意味がよくわからなかった。
だから、周りが一人暮らしができることを喜んでいたけど、俺だけは憂鬱になっていた。
一人暮らしをするということは、ご飯も洗濯も掃除も、全部自分でやらなければならないということだ。
どう考えても、実家にいたほうが楽だと思う。
ただ、大学にはどうやっても実家から通うことはできない。
なので、俺はしぶしぶ、アパートの一室を借りて一人暮らしをすることになった。
もちろん、この部屋も、母親が決めてくれた部屋だ。
そうはいっても、もう大学生だ。
そろそろ自立もしておかないとならない。
そう考えて、最初は気合を入れて、家事をしていた。
だけど、そんなのは1週間ももたなかった。
大学とバイトで忙しくて、家事どころじゃない。
しかも、このあたりは子供が多いのか、四六時中うるさくて、余計にやる気が殺がれる。
部屋の中はごみ屋敷のようになり、洗濯物も山積みになっていった。
ご飯も、作るどころか、買うのも面倒になり、食べない日も多くなった。
大家から、俺の部屋からの臭いで苦情が出てるなんて言われて、ヤバいと思っていたら、隣に住む50代くらいのおばちゃんが話しかけてきた。
そのおばちゃんが母親と年が近く、雰囲気もなんとなく似ていたということもあり、俺はおばちゃんに悩みを相談した。
すると、おばちゃんは「嫌じゃなかったら、私が掃除するかい?」なんて言ってくれた。
もちろん、嫌なんてことはない。
逆に、他人の部屋の掃除なんて、金をもらってもするのは嫌なんじゃないかと言うと、おばちゃんは笑って、首を振った。
なんでも、子供もいなく、旦那さんも3年前に亡くなっているそうで、いつも一人だと寂しいらしい。
おばちゃんは家事が好きなので、動き回ることで寂しさを紛らわしたいのだという。
そう言われると、俺に断る理由はない。
おばちゃんには、俺の部屋の合いかぎを渡して、いつでも入っていいと言っておいた。
おばちゃんが俺の部屋に来るようになってからは、徐々に部屋の中がきれいになっていった。
しかも、テーブルの上には料理があって、「よかったら、食べてください」という紙が置いてあった。
これもすごく助かる。
おばちゃんのおかげで、俺は家事から解放され、大学の勉強も捗った。
最近は静かな時間が多いので、集中できるというのもある。
本当におばちゃんには感謝しかない。
あるとき、友達に言われて、おばちゃんのところに菓子折りを持っていった。
おばちゃんは「好きでやらせてもらっているんだから」と言ったが、嬉しそうだった。
それからというもの、夕ご飯はおばちゃんと一緒に、俺の部屋で食べるようになった。
帰ると、おばちゃんがご飯を作ってくれている。
それを食べながら、1、2時間、話をする。
そのとき、俺は前から思っていたことを質問した。
「ねえ、この肉料理のレシピ、教えてくれない? 母さんにも教えようと思って」
おばちゃんの作る料理は本当に美味しい。
特に、肉料理が絶品だ。
だけど、おばちゃんは「秘密」と笑って、教えてくれなかった。
それから数か月後。
ゴミ屋敷だった俺の部屋は、すっかりときれいになった。
ただ、おばちゃんはずっとご飯を作り続けてくれていたのだが、肉料理がまったく出てこなくなった。
たまに、生姜焼きとか、から揚げとかは出てくるが、あの、絶品の肉料理が出てこない。
なのでリクエストしてみたが、「なかなか仕入れができなくて」と言われてしまった。
どうやら特別な肉を使う料理だったらしい。
レシピを教えてくれなかったのも、そのあたりが理由なのかもしれない。
それから数週間後。
おばちゃんは警察に逮捕された。
そして、警察は俺の部屋も調べさせろと言ってきた。
