記憶喪失の被害者

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本編

「マンションの前で、男が血を流して倒れている」

そう通報を受けて現場に行くと、通報内容通り、男が頭から血を流して倒れていた。
ほぼ同時に到着した救急車に乗せられて、男は病院に運ばれる。

男の怪我は医者に任せるとして、何が起こったかを調べるのが警察の仕事だ。

聞き込みや現場検証の結果、そして男の怪我の状況から事故ではなく事件だということがわかる。
財布等は取られていないので、おそらくは怨恨によるものだろう。

男は手術の結果、一命をとりとめた。

男は正面から鈍器で頭を殴られている。
ということは、少なからず男は相手の顔を見ているはずだ。

なので、あとは男が目を覚ますのを待つだけとなる。
犯人の情報を、男から得られれば事件は解決だ。

そう思っていたのだが、当てが外れた。

目を覚ました男は何も覚えていないのだという。
つまりは記憶喪失というわけだ。

自分の名前と年齢くらいしか覚えてないらしく、自分がなぜ病院にいるのかさえ、わからないと言った。
とはいえ、話は聞かないとならない。

「僕の身に何が起きたんですか?」
「それは我々が知りたいくらいです。本当に何も覚えてないんですか?」
「はい。名前と年齢以外は全く思い出せません……」
「そうですか……。ご家族には連絡させていただいています。明日には到着するとのことです」
「……僕には妻子がいるということですか?」
「いえ、いらっしゃるのはご両親です」
「そうですか。でも、記憶がないんじゃ、他人と会う気がして、なんだか気まずいです」
「ご両親と顔を合わせれば、何か思い出すきっかけになるかもしれません」
「そうだといいんですが」
「傷の具合はどうですか?」
「まだ、かなり痛いですね。本当に鎮痛剤が効いているのか疑いたくなります」
「あまり無理はしないでください。思い出すのはゆっくりで構いませんから」
「はい。それにしても、こんなことになるなんて、本当に運が悪いですね」
「あまり思い詰めずに。命があっただけ、儲けものと考えましょう」
「そうですね。相手が非力じゃなかったら殺されてました」
「とにかく、あなたは自分の体調だけ気にしていてください。あとは我々警察が何とかします」
「……え?」
「どうかしましたか?」
「刑事さん、だったんですか?」
「スーツを着た医者なんていませんよ」
「そうですよね、すみません。ボケてたみたいです」
「頭を強く殴られたから、ということにしておきましょう」
「ははは。そうですね」
「では、私はこれで失礼します」

それから3ヶ月が経ち、結局記憶が戻らないまま、男は退院した。
そして、事件の捜査も続いている。

そして、それから2ヶ月後。
我々はこの男を殺人容疑で逮捕した。

終わり。

■解説

男は名前と年齢以外は何も覚えていないと言ってる。
だが、「殺されるところだった」と話すのはおかしい。
(なぜ病院にいるのかもわからないのに、襲われたことを知っているのは矛盾している)
つまり男の記憶喪失は嘘で、相手を見ていたことになる。
ではなぜ、男はそんな嘘を付いたのか。
それは自分で相手に復讐するためだったのである。