本編
俺は最近、彼女が出来てかなり浮かれている。
その彼女というのが、大学内はもちろん、近隣でも可愛いと噂の女の子で、いわゆる高嶺の花だった人だ。
ゼミが一緒だったことがきっかけで話すようになり、ダメ元でデートに誘ったら、あれよあれよととんとん拍子に進んで付き合うようになった。
今まで付き合ったこともなければ、デートだって初めてだった。
それなのに、いきなりこんなことになって、かなり驚いている。
正直、一生分の幸運を使ってしまったのではないかと思う。
もし、そうだったとしても、まったく後悔はないんだけど。
周りの友達からも、羨ましいとか、ふざけんなとか、色々、冗談で言われて、弄られている。
中にはかなり嫉妬して、本気で敵意を向けて来る人もいるけど、今の幸せを考えると、全然気にならない。
今は幸せの絶頂なのだ。
と、思っていたのだけど、ちょっと洒落にならないことが起こっていて、悩んでいる。
それはどうやらストーカーにまとわりつかれているということだ。
彼女ではなく、俺に。
最初は単なる嫌がらせのたぐいかと思っていたけど、違うような気がする。
家のドアノブにお弁当が入った袋が引っ掛けられていたことに始まり、手紙なんかもポストに入れられていた。
内容は、『ずっと好きでした』というようなもの。
写真も同封されていて、結構、可愛い子だった。
たぶん、彼女と付き合う前だったら、付き合いたいと思ったはずだ。
ただ、今は彼女が好きなので、付き合うことはできない。
もっと早く言ってくれればよかったのに、と思う反面、もし、この子と付き合っていたら、今の彼女とは付き合ってなかったはずなので、これはこれでよかったとも思う。
最初は、差し入れられていたお弁当とか、ありがたく食べていた。
友達からは「バカじゃないの?」とか「危ないだろ」とか言われてたけど、そこまで悪意を感じなかったから大丈夫だと思ったのだ。
だけど、それがドンドンとエスカレートしていった。
プレゼントや手紙は、家の外にあったのに、最近ではそれが部屋の中にある。
つまり、家の中に侵入しているということだ。
さすがにこれはヤバい。
完全に犯罪だ。
いくら俺のことが好きだからといっても、これはやりすぎだろう。
それからはちゃんと戸締りをしっかりしているのに、侵入されてしまう。
不思議なことに、窓を壊されたとかは全くない。
玄関から入って、出るときに鍵を閉めているようにしか思えない。
もしかしたら、その子は合い鍵を作っているのかもしれない。
だから、俺は大家さんにドアのカギを変えたいと相談したら、既に大家さんは事情を知っていて、了承してくれた。
すぐに鍵を変え、これで安心だと思った。
でも、ダメだった。
次の日には普通に部屋に侵入されていた。
これはもう、警察に行くしかないと思い、次の日に行こうと思っていたときだった。
深夜に寝ていたら、物音がして目が覚めた。
暗闇の中に人が立っているのが見える。
相手は覆面をしていた。
そして、その手には包丁が握られている。
その包丁が、振り下ろされて、俺は慌てて避けた。
そのことで、相手は驚いて、部屋を出て行った。
俺はすぐに警察に電話した。
すると5分をしないうちに、警察官が来てくれた。
「随分と早いですね」
俺がそう言うと、警察官の人はこう言ってくれた。
「こんなことがあるかもと思って、深夜のパトロールを強化してたんですよ」
その警察官の人は、引き続き、夜のパトロールを続けてくれるという。
よかった。
とりあえず、今夜のようなことは、もう起きないだろう。
終わり。
■解説
語り部は、『次の日に』警察に行こうと考えていた。
ということは、まだ警察にはいっていないはずである。
それなのに、既に『深夜のパトロールを強化していた』のはおかしい。
それに、大家さんが既に事情を知っていたという点も辻褄が合わない。
つまり、ストーカーをしていたのはこの警察官で、その身分を使って、大家さんに言ってドアの鍵を開けていたのかもしれない。
もしかすると、この警察官は語り部に嫉妬して、語り部を狙った可能性がある。
