本編
私は一人暮らしをするとき、母の勧めで犬を飼うことにした。
それは主に防犯の目的だったけど、今では心の癒しとして大いに役立っている。
うちの子は大型犬で、人懐っこくて、すごく頭がいい。
お手やお座り、伏せ、おまわり、ハイタッチなんかもできる。
なにより凄いって思うのは、ちゃんと人を見て、吠えることだ。
始めて見る人には凄く吠える。
でも、友達なんかには一切吠えない。
だから、防犯対策としても、うちの子はしっかりと仕事をしてくれているのだ。
それに気配にも結構、敏感で、配達とか来るときは教えてくれる。
そういうのは地味に助かったりする。
私は家では結構、だらしない格好をしていることが多いから、、配達を教えてくれると着替えておけるのは大きい。
急にチャイムを押されると慌てちゃうから。
とにかく、うちの子は可愛いし、頭がいいしで、私の日々の生活は充実している。
最初は世話が面倒だなって思ったけど、犬を飼うことを勧めてくれた母には大感謝だ。
そんな充実した生活だけど、最近、ちょっと気になることがある。
うちの子が、ある時間になったら壁に向かって『おすわり』をするのだ。
うちの子は人懐っこいから、友達が来たりするとおすわりをすることはある。
でも、うちの子が向いているのは壁だ。
誰もいない。
それなのに、ずっとおすわりをしている。
そこで私はピンときた。
ネットで調べてみると案の定だった。
この部屋は事故物件だったのだ。
騙された。
部屋を借りるときは、不動産屋はそんなこと言ってなかった。
大して安くもないのに、事故物件だったなんて、詐欺じゃないだろうか。
つまり、うちの子は幽霊が見えていて、幽霊に向かっておすわりをしてたってことだ。
この子がいなかったら、気付けなかった。
本当にうちの子は優秀だ。
私はさっそく引っ越しを済ませた。
もちろん、ペット可の部屋だ。
これでまた安心して生活できる。
……そう思ってたんだけど。
うちの子がまた壁に向かっておすわりしてる。
終わり。
■解説
もし、飼い犬が幽霊に向かっておすわりをするなら、『初めから』しているはずである。
しかし、飼い犬がおすわりをし始めたのは『最近』だ。
そして、引っ越しした後も、おすわりをしている。
さらに飼い犬は気配にも敏感で、壁の向こうにいる配達員にも気付くくらいである。
つまり、飼い犬がおすわりをしているのは、『壁の向こう側にいるストーカー』に対してやっていたことになる。
