9月。
ジリジリと暑い日差しが教室に差し込んできている。
「ねえ、みんな。百物語しようよ」
夏休みが終わり、絶望に包まれながら、冬休みに何をするかを話している俺たちに、智紫がニコニコとした表情で、爽やかに言ってきた。
「……ん~。紅太、どうする~?」
相変わらず気の抜けた顔をしながら、航青が俺を見てくる。
「百物語かぁ……」
「それより、心霊スポットに行った方が面白くねーか?」
銀河が頭の後ろで腕を組み、椅子を揺らしながら言う。
「いやいや。夏休み中にえらいことになったこと、もう忘れたのかよ」
白澄が肩をすくめる。
夏休みに心霊スポット巡りをやったが、結局、心霊現象に遭うことはなかった。
出会うのはDQNばかりだった。
幽霊よりも人間の方が怖い。
それを実感した夏休みだった。
同じことを思い出したのか、みんなも顔を引きつらせている。
そんな俺たちに、人差し指を上げて、にこりと笑う智紫。
「夏休みの口直しってことで、どうかなぁ?」
怪異ジャンキーの智紫は、いつもホラーに飢えている。
とても、寺の息子とは思えない。
お前は将来、それを祓う立場になるんだぞ。
「けど、百物語って、正直、しんどくねーか?」
「まあ、銀河の言うこともわかるよ。確かに、大変だもんね。百物語って」
「中学の時にやったときのこと覚えてる~? 100個の怪談を話す方も聞く方も地獄だったよね~」
航青がため息をつく。
確かに。
あれは本当にヤバかった。
拷問といっても過言ではない。
終わる頃には、疲れと眠気で意識が朦朧としていた。
あんなのは、もう二度とやりたくない。
「だよな。百物語って夕方に始めても、終わる頃には昼になってたんだぜ?」
「そうそう。怪異が出るのか? っていう怖さよりも、虚しさの方が強かったもんな」
銀河と白澄が顔をしかめる。
すると、
「そこで、ぼくに秘策があるんだよ」
「……なんだよ?」
俺の相槌に、智紫はニヤリと笑い、人差し指を立てた。
「題して! 『60分でできる百物語!』」
「……は?」
俺たち4人が同時に首を傾げる。
「例えば、1話10分の怪談をするとして、100話なら1000分になる。」
「1000分ってことは……えーっと、何時間だ?」
「16時間半以上、つまり3分の2日だね」
「地獄だな!」
「それを、1話、36秒くらいにする。そうすれば、100話でも60分で終わるってわけ」
俺は航青、銀河、白澄と顔を見合わせる。
「けど……。めんどいよな」
俺がそう言うと、他の3人もうんうんと頷く。
そのときだった。
「なになに? 面白そうな話してるね」
なんと、まばゆい光を放つ(体感で、実際に光ってるわけではない)、クラスの……いや、学校のアイドルである山口桃萌さんが話しかけてきたのだ。
「まだまだ暑いからさ。みんなで百物語をしようって話してたんだよ」
桃萌さんに話しかけられ、固まっている中、智紫だけが普通に返答している。
俺たちは『バカレンジャー』なんて呼ばれていて、いつも5人で行動しているが、智紫だけは女子なんかとも交流が多い。
意外とモテているのも腹が立つが、そこに興味なさそうなのがもっと腹が立つ。
とはいえ、こういうときには心強い。
現に、俺たちは未だに桃萌さんに話しかけられたという衝撃から立ち直れていない。
「百物語!? えー! いいなぁ! 面白そう!」
「桃萌さんも参加する? あ、でもみんな、めんどうくさいって……」
「やるぞーーー! な? みんなっ!」
「おう! やるぞ!」
俺の掛け声に、全員が頷く。
今、俺たちの心は一つになったのだった。
* * * *
そして、週末の夜の22時。
俺、航青、銀河、白澄の4人で夜道を歩いて、智紫の家の寺に向かっている。
「昨日の夜は眠れなかったぜ」
「桃萌ちゃん、ホント、可愛いよな」
「それが一晩、一つ屋根の下で過ごすんだぜ?」
ゴクリと、みんなが生唾を飲み込む音が聞こえる。
もちろん、俺も飲んだのだが。
「みんな、待ってたよ。入って入って」
智紫の家に到着すると、ややハイテンションの智紫にお堂へ通される。
「え? ここでやんの?」
「うん。だって、100本のろうそくを並べるのに、部屋じゃ危ないでしょ」
十分、お堂でも危ない気がするんだが?
智紫の親父さんは、よく百物語をするのに、ここを貸してくれたものだ。
「智紫ん家のお堂に入るのって、久しぶりだよな」
お堂を見渡すと、中央には桃萌さんが座っていた。
「えへへ。楽しみで、早めに来ちゃった」
可愛い! 可愛すぎる!
まるで女神だ!
航青、銀河、白澄が、さっきから静かなのは、桃萌さんに見惚れてたからだ。
「よし、それじゃ、準備しようか」
智紫はろうそくとろうそく立てを出してくる。
そして、淡々と作業を始める。
「あ、わたしも手伝うよ」
桃萌さんが手伝い始めたので、俺たちも慌てて動き始める。
100本のろうそくを立てるのは大変だったけれど、6人でやったので、思ったより早く終わった。
とはいえ、時刻は深夜0時になっている。
「それじゃ、始めようか」
準備が完了し、智紫がニヤリと笑う。
俺たちは輪を作るようにして座る。
電気を消すと、ろうそくの火だけになり、お堂内は薄暗くなった。
なかなか雰囲気がある。
「じゃあ、『60分でできる百物語』を始めるよ。1人、持ち時間は10分。順番は、紅太、航青、ぼく、桃萌さん、銀河、白澄ね」
みんなが頷く。
俺がトップバッターだ。
落ち着いて、一度、深呼吸をする。
そして――。
俺は怪談を話し始めた。