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せっかくだから、誰も知らないとっておきの話をしようかな。
これは先輩に聞いた話。
先輩は街外れの郊外に住んでたんだけど、会社には車で通ってたんだ。
住んでたマンションには駐車場がなくて、家から少し離れた場所に駐車場を借りて、そこに車を停めてたみたい。
家から歩いて大体10分くらいの距離だったらしいんだけど、それが地味に面倒くさいって、よく愚痴ってたよ。
それで、家からその駐車場に行くまでに、踏切があるんだ。
その踏切はその辺りじゃ有名で、開かずの踏切なんて言われてたんだって。
先輩は、その踏切に引っかかったら、5分以上はロスするから、家を出る時間にはかなり気を使ってたんだ。
でも、帰りはそれができない。
だって、毎日、決まった時間になんて帰れないからね。
どうしたって、分刻みで帰る時間をコントロールなんて無理だよ。
だから、帰るときは、結構、その踏切に引っかかってたみたい。
引っかかったときは、本当に最悪だって言ってた。
まあ、5分間、黙って待つことになるんだからストレスになるのはわかるよね。
で、ある日の夜のことだったんだけど、先輩はその日、残業で帰るのが凄く遅くなったんだ。
深夜の1時くらいって言ってたかな。
車を駐車場に停めて、家に戻ろうと歩いてたら、その踏切に引っかかった。
「うわ、最悪だ」って先輩は思ったんだ。
で、しょうがないから踏切の前で待ってた。
けど、いくら待ってても電車が来ない。
ずーっと警報が鳴ってるんだ。
先輩は15分は待ったって言ってたけど、たぶん、それは体感で、実は5分くらいだったかもしれないね。
待ってる時間って長く感じるから。
それで待ってたら、電車が通過してないのに、警報が止まって踏切が開いたんだ。
先輩は「は?」って思った。
「なんだよ、そりゃ」って。
でも、考えてみれば、そもそも、そんな時間に踏切に引っかかるのがおかしいんだ。
だって、深夜1時過ぎだから。
とっくに終電は終わってる時間だったんだ。
先輩はそのときは、単なる故障だろうって思ってきにしなかったらしい。
でも、残業で帰りが遅くなると、また踏切で引っかかった。
そして、また15分くらい待たされて、電車が来ないまま、踏切が開いたんだ。
先輩は腹が立って、次の日に、その鉄道会社に踏切が壊れてるって苦情の電話をしたみたい。
担当は平謝りしてたから、先輩は少しだけ気が晴れたって言ってた。
でも、その踏切は直らなかった。
先輩は何度か苦情を入れたけど、次第に悪戯だと思われるようになって、相手にされなくなったって言ってたよ。
で、先輩は逆におかしいって思い始めたんだ。
だって、本当に故障だったら、鉄道会社が放置してるわけないって。
踏切なんて、事故が起きたら終わりだからね。
先輩が苦情を入れたときに、絶対に点検したはずなんだ。
それで先輩は、こう思った。
「心霊現象じゃないか」って。
それで調べてみたら、先輩の予想は大当たりだったんだ。
5年くらい前に、その踏切で、子供が轢かれて亡くなってた。
しかも、その前にも、何回かその踏切の事故で人が亡くなってることがわかったんだ。
先輩は妙に納得したらしいよ。
そもそも、そんな深夜に警報が鳴り続けてたら、近所から絶対苦情とか来そうだしね。
「それがないってことは、聞こえてるのは俺だけだったんだと思う」って先輩は言ってた。
それから先輩は、踏切が降りても無視して通ることにしたんだ。
だって、電車が来ないことはわかってるからね。
無意味に15分も待つ意味もないから当たり前だと思う。
っていう話。
……え?
とっておきっていうわりにはあんまり怖くない?
そう?
十分怖いと思うんだけどな。
じゃあ、オチも言っちゃおうかな。
最初にさ、この話は『誰も知らない』って言ってたでしょ?
どうしてだと思う?
なぜなら、先輩は『まだ、僕にしか話してない』って言ってたから。
それならもう他の人にも話してるかもしれないって思ったでしょ?
でも、それはあり得ない。
僕がこの話を聞いたのが1週間前なんだ。
そして、先輩とは1週間会ってない。
もちろん、先輩は会社にも来てないし、会社の方でも先輩と連絡を取ろうとしたけど、できなかった。
先輩は行方不明になったんだ。
これはね、僕の予想なんだけど、聞いてくれるかな?
あの日も、先輩は残業で帰るのは1時過ぎになってたはず。
たぶん、先輩は警報が鳴っているのに踏切を渡ったんだ。
電車が来ないと思ってね。
でも、僕はこう思ってる。
電車が来て、先輩は轢かれたんじゃないかって。
……でもさ、そう考えるとおかしいんだ。
終電なんて、とっくに終わってる時間なのにさ。
先輩を撥ねたのは、一体「どこ」へ向かう電車だったんだろうね。

