意味が分かると怖い話 解説付き Part641~650

意味が分かると怖い話

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19Hz

俺はおじさんのちょっとしたコネで、一軒家を借りて住んでいる。
2階建てで、全部で6部屋もある。
そんな家を格安で、1人で住んでいるのだ。
 
最初は豪華だなと思っていたが、正直、今では持て余している。
物置にしようと思っても、俺はそんなに物欲もない。
結局、使っている部屋は2つほどだ。
 
時々、友達が遊びに来て羨ましがっているが、ただ、掃除が大変なだけだと言ったら、黙ってしまう。
 
そんなある休みの日の夜。
俺は部屋でホラー系の動画を見ていた。
 
動画自体はそこまで怖くはなかったのだが、その日から変なことが起こるようになった。
 
2階で物音がしたり、廊下に人影を見るようになったり、物の位置が変わっていたり、不気味なことが頻繁に起こる。
 
こうなってくると、広い家の中に1人というのは心細くて不安になる。
 
俺はこのことで寝不足になり、体調を崩し気味になり、ついに寝込んでしまった。
そんな俺のことを心配して夜に友達がお見舞いに来てくれた。
 
理由を話すと、友達は幽霊なんじゃないかと言う。
 
そんなわけがない。
俺は全然霊感がないのだ。
今まで色々と心霊スポットにも言ったことがあるが、幽霊を見たことなんて一度もなかった。
 
そしたら、友達は「もしかしたらその動画から19Hzが出てたのかも」と言い出した。
なんでも、19Hzの周波数の音を聞くと幽霊が見えるようになるのだという。
 
正直、そんなわけないだろと思った。
けど、あの動画を見てから変なことが起こり始めた。
そう考えると、あり得るかもしれない。
 
すると、友達が調べて見てくれると言ったので、俺はお願いすることにした。
そして、どの動画かを教えようとしたときだった。
 
突然、2階の方から物音がした。
俺と友達は顔を見合わせて、2階を見に行くことにする。
 
階段を登り、ゆっくりと廊下を覗き込む。
すると長い髪の女が歩いているのが見えた。
 
俺と友達は悲鳴を上げて、すぐに家を飛び出した。
 
「俺も霊感なかったけど、やっぱり幽霊が見えるようになったんだよ」
 
友達がそういうので、俺は頷くしかなかった。
 
そして、次の日、俺はお寺に行って除霊をしてもらったのだった。
 
終わり。

■解説

友達は「まだ動画を見ていない」はずである。
ということは、19Hzで幽霊が見えるようになったわけではない。
もしかすると、幽霊ではなく、何者かが家に住みついているのかもしれない。

 

立体駐車場

最近はずっと仕事に追われていた。
深夜の2時くらいに家に帰り、朝の7時には会社に向かう。
もちろん、休日なんてなく、土日だろうが祝日だろうが関係なく働いていた。
もう何連休になるのか覚えていない。
1ヶ月以上はずっと休みがなかったことは間違いない。
 
けど、ようやく仕事も落ち着き、久しぶりの休みを貰えることになった。
 
本当は寝て過ごしたいところだが、そうはいかない。
生活必需品を買っておかなければならないからだ。
 
買い貯めするときには、車を持っておいてよかったと思う。
いつもは家と会社を往復するだけだが。
 
車で30分くらいのところに、かなり大きなショッピングモールがある。
そこに行けば、大体の物は揃う。
それでも買い物には結構時間がかかるから、朝の10時には家を出た。
 
ショッピングモールに到着すると、既に人で溢れかえっていて、立体駐車場もほとんど空きがない。
どこか停められるところがないかとウロウロしていると、98番のスペースが空いていた。
少し入り口から遠いが、贅沢は言えない。
 
俺はすぐにそこに停めて、ショッピングモールの中に入っていった。
 
当たり前だが、中も混んでいて、商品を選ぶのも一苦労だ。
生活用品や食材、衣服なんかも買って、車へと戻る。
 
鍵を開けて車に乗り込み、エンジンをかける。
すると、そのときにあることに気付いた。
 
なんと助手席に女性が座っていた。
もちろん、見知らぬ女性だ。
あっちも驚いた顔でこっちを見ている。
 
俺は思わず「うわっ!」と叫び、「何してるんだ!?」と問い詰めた。
すると女性は俺を睨みつけ、「あなたこそ、なんなんですか!? これ、私の車ですよ!」と返された。
 
俺は唖然とした。
そんな俺に女性は畳み込むように詰め寄って来る。
 
「私は98番に停めたんです」
「俺だってそうだよ。確かに98番に停めたのを覚えてる」
「……もしかして、鏡越しだったんじゃないんですか?」
「え?」
「ほら、ここの駐車場にはミラーが多いんです。それを見て勘違いしたんじゃないんですか? 本当は86番だったんですよ」
 
そう言われると自信がない。
 
「早く出て行ってください。警察を呼びますよ」
 
そう言われて、俺は渋々車から出て、86番の駐車場へと向かった。
 
だが、そこには俺の車はなく、全然違う車が停まっていた。
 
終わり。

■解説

語り部は車のカギを開け、エンジンまでかけている。
もし、女性のいうように他人の車なら、それは無理なはずである。
つまり、その車は語り部の物で、女性は車上荒らしをしていたのかもしれない。

 

雨夜の待合室

今日は残業で遅くなってしまった。
しかも、会社を出ると雨が降り出してしまい、たまたま傘を忘れてしまっていた。
途中のコンビニで傘を買おうと思ったが、最終のバスの時間にギリギリだったため、諦めた。
 
ずぶ濡れになりながら走ったが、無情にも目の前でバスが出発してしまう。
お昼は見栄を張って部下に奢ってやったため、家までのタクシー代さえもない。
お金をおろそうにも給料日は明日で、そもそも残額がほとんどないのだ。
 
今日の残業だって、先方のミスなのに俺のせいにされてしまい、その対応に追われていたからだ。
そして、お昼を奢ったのに部下は定時でさっさと帰ってしまった。
別に手伝ってほしいわけじゃなかったけど、「何か手伝いましょうか?」の一言くらいは欲しかった。
 
しかも、声をかけてくれなかったのは部下だけじゃない。
同僚だって先輩だって上司だって、誰一人、俺に何も言わずに帰っていった。
 
別に虐められているわけではない。
いつもそんな感じなんだから。
 
そういう俺だって、今まで残業している人を見つけても手伝おうか、なんて言ったためしはない。
まあ、これも自業自得か。
 
なんてことを待合室の椅子に座りながら、うだうだ考えていてもどうにもならない。
帰るならさっさと帰らないと。
 
だけど、待合室の窓から見える外は大雨だ。
一向に病む気配はない。
また濡れるのかと思うと、重い腰も上がらなかった。
いっそ、ここで一晩明かしてやろうかなんて自虐的なことも考えてしまう。
 
そうしていると、待合室のドアが開いた。
顔を上げて見てみると、入って来たのは若い女性だった。
黒色の長い髪で、とても美人な人だ。
 
その女性は俺と目が合うと、会釈をしてくれたので、俺も思わず頭を下げる。
 
すると女性は俺の近くに座った。
 
「急に雨なんてビックリだよね」
 
女性が朗らかに笑いかけてくる。
思わず、ドキッとしてしまう。
 
「そうですね。しかも、ちょうど傘を忘れてしまって」
 
明らかに女性の方が年下なのに、俺の方が敬語を使ってしまった。
 
「家は遠いの?」
「バスで20分くらいですかね」
「あらー、そりゃ遠いね」
 
明るくてとても話しやすい女性だった。
 
俺はあまりおしゃべりが得意じゃない、というより口下手なのに、気が付くと15分も他愛のない話をしていた。
人と話していて、こんなに楽しいなんて久しぶりだ。
 
女性はいつもこの時間のバスに乗るだと言っていた。
それを聞いて、俺もこの時間のバスにすればまた会えるんじゃないかと考えていると、待合室の前にバスが留まる。
 
「あ、バス来たよ。乗ろ」
「そうですね」
 
女性が立ち上がったので、俺も一緒に立ち上がる。
そして、女性と話ながらバスに乗り込んだ。
 
今日はついていない日だと思っていたが、最後の最後で最高についていたようだ。
 
と思って時計を見たら、もう12時を過ぎていた。
 
なるほど。
どうやら、今日はついている日のようだ。
 
終わり。

■解説

語り部は最終のバスを乗り過ごしている。
それなのに、待合室にバスがやってきている。
もしかすると、そのバスは普通のバスではないのかもしれない。
そんなバスに乗り込んでしまった語り部と女性はどうなってしまうのだろうか。
また、女性は「いつもこの時間のバス」に乗ると言っている。
女性自身もこの世の者ではなく、幽霊なのかもしれない。

 

地下に住む者たち

ある公園の地下には人食い人種がいるという噂があった。
 
最近、その公園で子供が行方不明になるという事件が多発している。
どの子供も、家族と一緒に遊びに来ていて、親が目を離した隙にいなくなっているらしい。
周りは人食い人種にさらわれ、食べられたのではないかと噂が流れる。
 
子供の行方不明が多発していることで、警察が公園を見回るようにしているが、不審者は見当たらない。
それでも、子供は行方不明になっている。
 
そこで警察は人食い人種の噂を信じるわけではなかったが、公園内に、どこかに繋がる通路のようなものがあるのではないかと考えた。
 
大人数の警察官を動員し、公園をくまなく探す。
すると、公園の端に地下の空洞に繋がる入口があるのを発見した。
 
地下の空洞はかなり広く、人が住んでいたとしてもおかしくない。
警察は軍に出動要請をし、地下の空洞に入った。
警戒しながら進んでいくと、ところどころに子供の死体や骨が放置されているのを発見する。
 
それはどれも行方不明になった子供のものだった。
 
そうなると噂の人食い人種が本当にいるかもしれないという緊張が走る。
少しずつ、慎重に調査を続ける警察と軍。
 
そして、調査から1ヶ月が経った。
地下の空洞には人食い人種どころか、誰も住んでいた形跡は見つからなかった。
 
やはり、地下に住む人食い人種は、ただの噂だと証明されたのだった。
 
終わり。

■解説

人食い人種がいないのであれば、一体、誰が子供たちをさらって空洞に死体を放置したのか?
この公園には「不審者」もいないはずである。
そして、行方不明の子供はみんな、「家族と一緒に遊びに来て」いる。
つまり、家族が人食い人種の噂を利用して子供を殺し、洞窟に死体を遺棄していたのかもしれない。

 

内緒話

俺はある日、物凄いイタズラをしてしまった。
バレたらシャレにならない、本当にヤバイイタズラだ。
 
だから俺はそのことを誰にも話さずに、心のうちにしまっておくことにした。
 
このことはもう一生話すつもりはない。
そう思っていた。
 
だが、時間が経つと、徐々にその気持ちも薄れてくる。
口の固いやつになら話してもいいんじゃないか。
なんて考えてしまう。
 
そのたびに、取り返しのつかないことになったらどうするんだと言い聞かせながら、沈黙を貫いた。
 
しかし、俺は友達が泊まりに来た時に、つい口が滑ってしゃべってしまったのだ。
その後、その友達には絶対に他の人には言わないでくれと頼んだ。
その友達も、さすがにヤバいと思ったのか、絶対にしゃべらないと約束してくれた。
 
それから1ヶ月が経った。
1人に話してしまったことで、また誰かに話したくなってしまった。
 
俺はまた、違う友達に、絶対に誰にもしゃべらないと約束してからイタズラのことをしゃべった。
 
すると友達はキョトンとした顔をして、知ってると言った。
 
終わり。

■解説

最初にしゃべった友達が、言いふらしている。
このあと、語り部はとてもヤバイことになる可能性がある。

 

ゾンビ

最近、町で奇妙な事件が起きている。
夜な夜な、通行人を無差別で襲う者がいるというものだ。
 
襲われた者は皆、殺害されていて、しかもその死体には噛み千切られた箇所がある。
そこで、狂人の仕業だと最初は考えられていた。
 
犠牲者が10人を超す頃、ようやく警察が本腰をあげて捜査に乗り出した。
その町はそこまで大きくなく、人口も限られてはいるので、相当苦労はしたが住人のアリバイを調べ上げた。
 
すると全ての事件の際にアリバイがない住人はいなかった。
警察は複数の犯人が存在することを疑ったが、死体に残った歯型は全て同一のものだった。
さらに、アリバイを調べると同時に歯型の検証も行ったが、ヒットする住人も見当たらない。
 
もしかすると、町の住人ではない人間がやってきて、事件を起こしているのではないかと考えた。
 
しかし、どんなに調べてみても、事件が起こったときに住人以外の人間が町に入ってきている形跡を見つけられない。
捜査に行き詰まる警察。
 
そんなとき、ある目撃情報が入って来る。
それは犯人の顔を見たというものだった。
 
その目撃者からの聞き取りにより、モンタージュを作成することに成功する。
そのモンタージュを頼りに、聞き込みを始めると、みんなが口を揃えてAだと言う。
 
Aは町の住人だった。
それならば、なぜ、アリバイや歯型を調べたときに、Aが犯人としてあげられなかったのか。
それは、Aが既に「死亡」していたからだった。
 
そのことで、住人はAがゾンビになって蘇り、人々を襲っているという噂が立ち始める。
 
Aはカルトにハマっている上に、何度か奇行をして捕まっていた。
なので、Aがゾンビになって蘇ってもおかしくない、という話だった。
 
警察はそんな非現実的なことを信じるわけにはいかなかったが、念のため、Aのことを調べてみた。
 
すると、Aの死因はショッピングモールでの火災に巻き込まれての焼死となっていた。
 
終わり。

■解説

警察は目撃者の聞き取りによってモンタージュを作成している。
つまり、目撃者は顔がはっきりと判明できたということになる。
しかし、Aは焼死しているはずであり、その場合、顔にも火傷を負っているはずである。
もし、ゾンビになって蘇っているのなら、火傷だらけの身体のはず。
もしかすると、Aは火災に巻き込まれて焼死してなく、生きて事件を起こしているのかもしれない。

 

かごめかごめ

女は妊娠してた。
しかし、姑は息子を女に取られたと思い、恨んでいた。
息子にはもっといい女性が相応しいと考えていた姑は、女を追い出すために日々、嫌がらせをしていた。
 
そんな中、女が妊娠してしまったのである。
子供を産んでしまえば、出て行く可能性が低くなってしまう。
何とかしなければと考える姑。
 
女の出産日が近づいてきたある日の深夜。
女は身重のお腹を抱えながら、慎重に階段を降りる。
 
そのとき、急に後ろから誰かに押された。
階段を転げ落ち、前のめりで階段下の床に叩きつけられる。
 
全身を打ち、微動だにできない。
女は薄れゆく意識の仲、女は階段の上にいる姑の笑みを見た。
 
終わり。

■解説

女は「前のめり」で階段下の床に倒れ込んでいる。
そうなると、女は床しか見えないはずである。
しかし、女は階段上の姑が見えている。
つまり、女の首は180度曲がり、階段が見えていた。
女の首は折れ、お腹の子供もまず助からないだろう。

 

TPSゲーム

誰にだって長所と短所があるし、何か1つは人よりも秀出ているものがある。
俺にとって、人よりも優れているのはゲームだ。
特にTPSゲームは誰にも負けない自信がある。
 
TPSゲームというのは自分視点のシューティングゲームだ。
よく話題に上がるのは、戦場で銃撃戦をするものがある。
 
新作のTPSゲームでも、俺は常にランキング1位だ。
しかも、全世界での1位。
正直言って、これは凄いことだ。
才能と言っても過言じゃない。
 
でも、俺の親はわかってくれない。
いつまでも仕事をしないでゲームをしている俺に対して不信感を募らせている。
毎日のように「仕事を探せ」だの「バイトでもいいから働け」だの言ってくる。
 
そんなことをしていたら、1位から転落してしまう。
アルバイトなんて、俺じゃなくてもできることだ。
でも、ランキング1位は俺にしかできない。
ゲームの世界では、俺は唯一無二の人間だ。
それを俺の親はわかっていない。
バイトで稼げる程度の金と世界ランキング1位とじゃ、重要度が全く違う。
 
それをどんなに説明してもわかってくれない。
金を稼がない人間は、この家にいらない、だそうだ。
 
家から追い出されてしまえばランキング1位から転落どころか、ゲームさえできなくなってしまう。
それでは本末転倒だ。
だから俺はしょうがなく、なにか簡単なバイトでもしてお茶を濁そうと考えていた。
 
だけど、そんな俺に転機が訪れた。
 
それはあるゲームのデバッカーをしてほしいという依頼が来たのだ。
もちろん、報酬も出る。
しかも、結構、高額だ。
 
ゲームをするだけで、お金が貰える。
これで親も文句が言えなくなるだろう。
 
俺はその依頼を受けることにした。
 
俺がプレイするゲームは新作のTPSゲームだ。
世界ランク1位である俺に、ぜひ、やってもらいたいとのことで、声をかけてきたらしい。
 
この新作のTPSゲームはヴァーチャル世界との融合を考えているのだという。
つまりはテレビ画面を見ながらゲームをするのではなく、その世界に入り込んでゲームをするという感じだ。
 
そのゲームは物凄くリアルで、まるで現実世界のようだった。
これには本当にびっくりした。
今の技術はこんなところまで来ていたのかと。
 
だが、普通のゲームと違って、コントローラを操作するのではなく、実際に、身体を動かすゲームになっている。
ちゃんと銃に重さがあるし、走れば疲れる。
なにより、敵も妙にリアルで、撃てば血が出るし、反応もリアルだ。
 
最初はちょっとグロいし、疲れるし、辛いと思っていたが、慣れれば問題ない。
数ヶ月もすると、イメージ通りに動けるようになっていた。
 
そして、俺は様々なステージをプレイする。
激しい戦闘の中を駆け抜け、敵を倒していく。
まさに気分爽快だ。
 
そんなあるとき、ゲームをプレイする場所を変えたいと言われた。
なんでも、それは外国で、そこに行ってゲームをプレイして欲しいのだそうだ。
 
もちろん、旅費は出る。
ゲームが終われば、バカンスを楽しめるらしい。
 
俺はその申し出を受けた。
 
そして、俺は飛行機に乗り、海外へと旅立った。
 
飛行機の中で俺はいつの間にか眠ってしまった。
起きたら、既にゲームプレイが始まっていた。
周りではドンパチの戦闘が始まっている。
 
そこで俺はあるプレイヤーからミッションを告げられる。
敵を倒しながら、特定のエリアまで侵入するというものだ。
 
楽勝。
たぶん、1時間もかからずにクリアできるだろう。
 
戦場を駆けながら、まずは3人ほど撃って倒す。
そこから、物陰に隠れ、また2人ほど撃つ。
 
順調だ。
思ったよりも楽かもしれない。
 
次はちょっと攻めてみよう。
銃を乱射しながら進む。
 
すると、腹にドンという衝撃が走った。
熱い。
血が噴き出し、激痛が襲ってくる。
すぐに動けなくなり、その場に倒れる。
 
すると敵がすぐに俺を取り囲み、銃を向けた。
 
くそ。
ゲームオーバーか。
次はもっと慎重に進もう。
 
終わり。

■解説

いくらリアルなバーチャルだとしても、痛みを感じるのはおかしい。
語り部は本当の戦場に送られ、ゲーム感覚で戦っていた。
語り部が参加したのはゲームのデバックではなく、死を恐れない兵士を育てる計画だったのかもしれない。
ゲームオーバーは死を意味するので、語り部に次はない。

 

ヒトデ

ある海岸でヒトデを拾った。
 
そのヒトデは普通の星型とは違って、なんていうかグローブみたいな形をしていた。
コケだらけでちょっと汚い感じだったが、僕は形が気に入ったので持って帰ることにした。
 
以前、ヒトデを飼ったことがあるので、道具は全部揃っているし、飼い方もわかっている。
だから、それほど抵抗はなかった。
 
家に帰って、一旦、ヒトデをバケツに入れて、水槽の準備を始める。
水槽は数年使っていなかったので、掃除するのに時間がかかってしまった。
けれど、下に敷く砂も残っていたし、レイアウトもあるのでなかなかの出来栄えになった。
 
ここにヒトデを入れれば、きっと鑑賞し甲斐があるだろう。
 
僕は水槽にヒトデを入れようとしたが、やっぱり、コケだらけで変な臭いもするので洗ってやることにした。
コケが結構、強くへばりついていて、取るのに大変だった。
でも、1時間かけて綺麗にしたおかげで、ヒトデは綺麗になった。
 
でも、改めて見ると、ヒトデの先の方に固いものがついてた。
それはまるで爪みたいだった。
 
形だけじゃなくて、本当に変なヒトデだ。
 
終わり。

■解説

語り部が拾ったのはヒトデではなく、人間の手首だったのかもしれない。

 

洗濯屋

その洗濯屋に落とせない汚れはなかった。
服に付いたシミや何十年も掃除していなかった壁の汚れはもちろん、血や指紋などの犯罪にかかわるものも綺麗にする。
中でも依頼が多いのは、お金に関する汚れの洗浄だ。
いわゆる、マネーロンダリングである。
 
そして、なによりも重宝されたのが、犯罪歴さえも綺麗にすることだ。
 
多くの犯罪者が多額の資金をもって、洗濯屋に駆け込んでくる。
洗濯屋はありとあらゆる方法で、犯罪歴を消す。
 
そんなあるとき、一人の男が洗濯屋にやってきた。
男はテロ行為に手を染め、既に指名手配されている。
 
洗濯屋は男に費用の金額を提示した。
しかし、男はそんな莫大な金は持っていなかった。
 
依頼を断ろうとする洗濯屋に男はなんとしてでも、刑務所に行くのは避けたい、何とかしてほしいとすがる。
すると洗濯屋は格安のプランなら洗濯できると言った。
 
男は藁にもすがる思いで、そのプランでお願いした。
 
洗濯屋は了承し、そして、拳銃の引き金を引いた。
 
終わり。

■解説

洗濯屋は男の人生を終わらせることで、男の身を綺麗にした。
死んでしまえば、刑務所に行かなくて済むので、男の要望は叶っている。

 

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