おじいさん家のゴン
これは僕が小学生のときの話。
学校の通学路の途中に結構、大きめの屋敷があった。
その家にはおじいちゃんしか住んでなくて、番犬替わりのゴンという犬がいた。
ゴンもかなりの老犬で、いつも寝てばかりで全然動かない。
おじいちゃんが言うには、1週間ずっと寝てたこともあるらしい。
とにかく、ゴンは動かない。
おじいちゃんがゴンを散歩に連れて行っているのを、僕は一度も見たことがないくらいだ。
だから、いつもおじいちゃんは、ゴンのエサの皿に山盛りのドッグフードを入れていた。
いつ起きるかわからないから、そうしているらしい。
こんなんで、番犬になるの?とおじいちゃんに尋ねたことがある。
すると、おじいちゃんは、「こう見えて、ゴンは優秀なんだよ。知らない人が家の敷地に入ってきたら、吠えてくれるんだ」と言った。
確かに、僕が初めてゴンを見た時に、物凄い勢いで吠えられたことを思い出した。
そのときはビックリして、逃げてしまったほどだ。
ただ、ゴンがおじいちゃんに、「この子は大丈夫」と教えられてからは、吠えることはなくなった。
ある年の夏休み明け。
学校帰りに、久々にゴンの寝顔でも見ようと思っておじいちゃんの家へ寄った。
すると、家の中からゴンの物凄い吠える声が聞こえた。
僕はおじいちゃんの「知らない人が家の敷地に入ったら吠えてくれる」という言葉を思い出し、すぐに警察に電話した。
警察はすぐに来てくれて、おじいちゃんの家へと入って行った。
警察の人の話によると、家の中には不審者などがいた形跡はなく、おじいちゃんだけがいたそうだ。
終わり。
解説
家の中には「おじいさんしかいなかった」と警察が言っている。
となると、なぜ、ゴンが吠えたのか。
それは、ゴンにとって「おじいさんが、おじいさんであると認識できなくなった」ということになる。
夏の日。
おじいさんは何らかの事情で命を落としてしまう。
そして、ゴンは1週間の間、寝ることがある。
おじいさんが亡くなってから、ゴンが目覚める間に「おじいさんと認識できなくなった」というわけだ。
つまり、おじいさんの遺体は腐敗し、見た目も臭いもおじいさんのものでなくなったことで、ゴンが知らない人だと思い、吠えてしまったということになる。
忘れられた監獄
そこはとても小さな監獄だった。
辺鄙な場所にあり、環境は最悪で、夏は異常に暑く、冬は凍死者が出そうなほど寒い。
ここに入れられるだけで、十分罰になるのでは、と思うほどに劣悪だった。
現在、その監獄には32人の囚人が収監されている。
それは20年以上、変わっていない。
入って来る者もいなければ、出る者もいない。
この監獄は、忘れられた監獄と呼ばれることもあるほどだ。
もちろん、看守も代わることもなかった。
この監獄には看守が5人いるのだが、数十年ずっと同じメンバーだ。
そうなると、次第に看守達の規律も乱れてくる。
囚人への暴行やイジメは日常茶飯事。
中には危うく命を落としそうになった囚人さえも出てくる始末だ。
そんな中、4人の囚人がこの状況に耐えきれなくなり、脱獄の計画を練り始めた。
長い年月をかけて、入念に計画を立てていく。
そして、ついにその計画は実行に移される。
しかし、誰一人、逃亡に成功する者はいなかった。
そのことはすぐに国に報告された。
報告の内容はこうだ。
昨日の未明、脱獄を図ろうとした囚人が出た為、5人全員撃ち殺しました。
国は脱獄犯が出なかったことに安堵し、引き続き、気を引き締めて囚人を監視するようにと御達しを出した。
そして、その事件以降、この忘れられた監獄は楽園と呼ばれるようになった。
終わり。
解説
脱獄を計画していたのは4人のはずなのに、撃ち殺されたのは5人となっている。
また、この事件以降に、この監獄が「楽園」と呼ばれるようになった。
ここから、実際に撃ち殺されたのは「5人の看守」であり、囚人が監獄を乗っ取ったことがわかる。
また、「逃亡に成功する者はいなかった」という点は、逃亡ではなく看守を襲って乗っ取ったので、逃亡する必要がなかったというわけである。
国からも忘れられるような監獄の為、この先も、この事件のことがバレる可能性は低い。
僕の親友
僕が5歳の頃、子犬を拾った。
お父さんやお母さんは飼うことを凄く嫌がったが、僕は3日間、ご飯を食べないで騒いだ甲斐があってか、ようやく飼うことを許してくれた。
僕は犬にポロと名前を付けた。
ポロは僕にすぐに懐いて、いつも僕の後を付いてきてくれる。
お父さんやお母さんとの約束で、毎日の散歩は僕がやることになっている。
でも、僕はポロとの散歩は好きだから、全然嫌じゃなかった。
逆に、散歩の時間が長すぎて怒られるくらいだ。
1年も経つと、ポロはすっかりと大きくなった。
散歩のときにする首輪も新しいものが必要だ。
僕はお小遣いを貯めて、ポロのために首輪を買ってあげた。
ポロもこの首輪を気に入ってくれたみたいで、散歩が終わっても外すのを嫌がった。
だから、首輪はいつもポロにしてある。
僕もポロのことが大好きで、学校が終わったらすぐに家に帰り、暗くなるまでポロと散歩。
これが僕の1日になっていた。
僕はこれでよかった。
学校の友達みたいに、ポロは僕に意地悪しないし、仲間外れにもしない。
僕が失敗しても笑わない。
学校で嫌なことがあっても、いつもポロが慰めてくれる。
僕はポロさえいれば、それでよかった。
でも、ポロの方はそう思ってなかったみたいだ。
ある日、学校から帰ったら、お母さんが泣きながら僕を抱きしめた。
お母さんが買い物の為に家のドアを開けた時に、外に出て行ってしまったらしい。
僕は信じられなかった。
絶対にポロなら戻ってきてくれると思って、ずっとずっと、ポロを待ち続けた。
でも、3年経った今でも、ポロは戻ってきていない。
それでも僕は信じている。
ポロはきっと、どこかで幸せに暮らしているんだって。
いつか戻って来てくれるって信じている。
ポロに買ってあげた首輪を握りしめながら。
終わり。
解説
語り部の男の子が言うように、ポロが仮に逃げたとしたなら、戻ってくるはずである。
それが戻ってきていないということは、ポロが生きている可能性は低い。
また、語り部の男の子が買ってあげた首輪は、ポロが気に入っていて外すことは無かったはずである。
だが、なぜ、いつもポロの首に付いているはずの首輪が、語り部の男の子の手にあるのか。
ポロが逃げた場面は、語り部の男の子が見たわけではなく、母親がそう言っているだけである。
この流れから、ポロの首輪は母親が語り部の男の子に渡したというのが自然。
そう考えた時に、母親が首輪を持っていた理由としては、母親がポロを始末した可能性がある。
昔の車
これは10年くらい前の話。
ゴールデンウィークの曜日が良い感じの並びで、世間では大型連休だと騒いでいた。
まあ、俺もそのときはウキウキしてたんだけどね。
しばらく実家に帰ってなかったというのと、久しぶりに大学の頃の友達が地元に集結するってことで、俺は実家に帰ることにした。
電車かバスで帰ろうと思ってたんだけど、物凄い混雑状況が見込まれるというニュースを見て、せっかくだから、レンタカーを借りて車で帰ろうと決めた。
幸い、俺の地元は田舎なので、道路も混むことは無い。
車なら、ストレスなく行けると考えていたんだ。
だけど、俺はゴールデンウィークを舐めてた。
ゴールデンウィークの初日、昼過ぎにレンタカーのお店に行ったら、すでにほとんどの車が貸し出されていたんだ。
残っていたのは、古いマニュアル車。
すでに5軒くらい店を回っていて、夕方になっていたこともあって、俺は渋々、その車を借りることにした。
正直、最初は、久しぶりのマニュアル車を運転することにテンションが上がってた。
昔、ゲームセンターでレースゲームに熱中したことも思い出して、楽しかった。
けど、そんな楽しい気分も30分もしたら消え失せた。
今の若い人には想像がつかないかもしれないけど、昔の車は今と比べると、本当に不便だった。
まあ、当然なんだけどさ。
まず音楽。
USBに曲を入れて、なんてことは、もちろんできない。
そして、CDも入れられない。
なんと、カセットだ。
いや、カセットってなんだよ。持ってないよ、そんなの。
ということで、仕方なく、携帯から音楽を流していた。
次にドリンクホルダー。
今では当たり前についてるけど、昔はそんなのはない。
自分で付けるしかないんだが、当然、レンタカーのためだけにそんなのを買う気にはならない。
その他にも色々と不便だったんだけど、数時間運転するうちに慣れた。
だが、それと同時に、致命的なことが起こった。
なんとスマホの充電が切れたのだ。
今だったら、車から充電できるけど、当然、この車にはそんな機能は備わっていない。
それでなくても、暇な運転中に、音楽すらなくなるのは致命的だ。
辺りはすっかり暗くなっていたのと、少し疲れたのと、喉が渇いていたこと、なにより、スマホの充電がしたくて、俺はサービスエリアに入った。
しかし、サービスエリアには車はもちろん、人っ子一人いなかった。
それもそのはずで、店が閉まっているし、このあたりは本当に田舎だ。
この時間にこんなところを通る人は少ないだろう。
売店でスマホの充電器を買うのは諦めるとして、せっかくだから、自販機でジュースでも買おうと思い、車を降りた。
おっと、そうそう。
この車は、今の車と違い、鍵をかけるのも特殊だ。
今は、スイッチ一つでロックしたり解除したりできる。
だけど、昔の車は、自分でロックを落として、ドアノブを引きつつ閉めるっていう方法をするのだ。
いやあ、懐かしい。
免許取り立てで、初めて車を持ったときは、いつもこうしていたのを思い出す。
車の鍵を閉めて、俺は自販機へと向かう。
缶よりは、ふたを閉められるペットボトルがいいと思い、ペットボトルの飲み物を探す。
今は自販機でもペットボトルが当たり前だけど、昔は逆だったんだよね。
缶の方が多かった。
お茶しかなくて、しかたなく、お茶を買った。
そして、俺はサービスエリア内にぽつんと一つだけ停まっている、エンジンがかかった古い車の方へ歩いていった。
終わり。
解説
エンジンがかかっているということは、キーは車に刺したままだということがわかる。
そして、語り部は、車を出るときに「ロック」をしている。
つまり、インキ―してしまっているということになる。
さらに、スマホの充電も切れ、店も閉まっていて、周りには誰もいない状況なので、語り部にはどうすることもできない。
崖
あいつが崖の前に立っていた。
俺は後ろからあいつの背を押して、崖から突き落とした。
警察が来て、崖から落ちた死体が引き上げられた。
俺はその死体の顔を見て、驚き、動揺した。
終わり。
解説
語り部は「あいつ」を「後ろから」崖に突き落とした。
つまり、落とすときに顔を見ていない。
死体を見て、驚き、動揺したということは、突き落としたのは「あいつ」ではなかったということになる。
リラックスタイム
社会人になって、ようやくの一人暮らし。
夜も遊び放題だし、休みだってダラダラと寝られる。
本当に自由な生活……だと思ってたけど、現実は違うね。
確かに自由は自由だけど、大変なことが多い。
ご飯を作ったり、洗濯したり、掃除したりを、当たり前だけど自分でやらないといけない。
しかも、仕事が忙しくて、寝て起きて会社に行くの繰り返しの毎日は、自由よりも大変な部分の方が重くのしかかってくる。
お母さん、ホント、いつも大変だったんだなぁ。
ありがとう。
とはいえ、弱音を吐いて実家に帰るわけにもいかない。
ここは頑張りどころ。
ということで、今のところ、唯一の楽しみがお風呂である。
音楽やユーチューブをかけながら、ゆっくりとお風呂に入る。
実家でやると怒られるところだけど、ここが唯一、一人暮らしのいいところだ。
今日も残業で遅くなって、疲れた体をお風呂で癒す。
疲れているから、今日は落ち着いた、ゆっくりとした曲を流しながら、温めのお風呂でゆったり気分。
あー、すごい、いい気持ち。
極楽極楽……。
目を開けると、そこは、なんと病院だった。
慌てる私に、看護師さんが事情を話してくれる。
病院に通報があったそうだ。
お風呂で眠ってしまって、溺れている子がいる、と。
すぐの通報だったから、命に別状はなかったが、あと、10分遅れてたら死んでいたかもしれなかったそうだ。
……一人暮らしは、やっぱり怖いね。
終わり。
解説
語り部の女の子は一人暮らしである。
さらに、何かの病気だということも考えられるのに、なぜ、「眠ってしまった」と、通報者は「知って」いたのか。
また、なぜ、「すぐに通報」できたのか。
それは、通報者は語り部の女の子のことをずっと見ていたことになる。
つまり、通報者は覗きをしていたということになる。
恋の行方
最近、この町は物騒になってきた。
通り魔や行方不明者が増えている。
ニュースで、不景気のせいって言っているのを見た。
不景気になると、治安が悪くなるらしい。
俺は完全に他人事だったのだが、友人が夜に不審者に追いかけられた。
そのショックのせいで、会社を辞めて、部屋に引きこもってしまった。
なんとか気を紛らわして欲しいと思って、頻繁に友人の家に通った。
アニメとかゲームを持って、友人の家に行き、休みの日は泊りがけで友人と遊んだ。
その甲斐があってか、友人は少しずつ外に出られるようになった。
そんなある日、よく行く本屋に、友人と立ち寄った。
すると、友人はある女性店員をジッと見ていた。
最近入った、新人の店員らしい。
友人は俺に、どうやって声をかけたらいいかを相談された。
どうやら一目惚れらしい。
いきなり誘ったりすると警戒されるから、常連になって少しずつ話すところから始めたらしい。
数ヶ月もすると、世間話もするようになっていた。
傍から見てもかなり仲がいい。
時々、仕事中に話し過ぎて、店長に怒られているくらいだ。
それから少しして、なんと、友人は彼女の仕事が終わった後に、家に送るようになっていた。
今は治安が悪いからと言ったら、喜んでお願いしてきたらしい。
だから俺は、友人にそろそろ仕事を探したらどうかと提案した。
ゆくゆくは結婚するのかもしれないんだから、仕事についていた方がいいと説得する。
すると友人は、覚悟を決めた顔でこう言った。
「もし、俺が行方不明になっても探さないでくれ」
俺は、最初、友人が何を言っているのかがわからなかった。
だけど、数日後、その意味がわかった。
友人は行方不明になり、本屋の店員である彼女もいなくなってしまった。
どうやら、二人は駆け落ちしたみたいだ。
なるほど。そういうことか。
友人の恋が成就したことは純粋に嬉しかったが、駆け落ちするのなら、俺にも一言言って欲しかった。
まあ、言われても、俺はきっと、駆け落ちなんて反対しただろう。
それを見越して、俺にあんな風に言ったんだと思う。
それにしても、駆け落ちか……。
彼女の方に事情があったんだろうか。
そういえば、最近、事件の話を聞かなくなった。
友人が駆け落ち先も、治安がいいところだといいんだが。
終わり。
解説
本屋の新人店員の女が、通り魔殺人の犯人。
友人は夜に、彼女に襲われている。
しかし、夜だったため、顔をはっきりと見ていない。
そんな彼女を本屋で見た友人は、それを確かめるために彼女に近づいた。
そして、友人は確信を持ち始めて、語り部に「行方不明になっても探さないでほしい」と言った。
それは、語り部の男を巻き込まないためだったと考えられる。
しかし、彼女にもそのことがバレ、友人は殺され、彼女自身も町から出て行ってしまった。
この町の治安がよくなったのは、彼女が町からいなくなったため。
固定電話
春から大学生になる俺は、念願の一人暮らしができることになった。
一人暮らしをするために、わざと地元から遠い大学を選んだのだ。
で、その家にはネット環境が整っていただんだけど、オプションだかなんだか知らないが、固定電話のサービスも付いていた。
ただ、俺はスマホを持っているし、固定電話なんて使わないだろうと思って、放置していた。
数ヶ月が経った頃、大学でも数人の友達ができ、大学生活も順風満帆に過ぎていった。
その年の夏、友達の一人が夜通しで、怪談の動画を見ようと言い出した。
友達と俺は面白そうだと盛り上がった。
で、それを俺の家でやることになった。
さっそく、家の中を掃除して、食べ物を用意する。
用意するって言っても、買うだけだけど。
それで、後で、かかった金額を割り勘にするのだ。
部屋を掃除していると、ふと、使っていなかった固定電話を見つけた。
あれから一度も使っていなかった固定電話をふと、使いたくなり、俺はその電話からピザ屋に電話して、ピザを頼んだ。
そして、その後、俺はある悪戯を思いついたのだった。
数時間後、友達がやってきて、俺達はピザを食べながら階段の動画を見る。
その動画が結構、怖いもので、正直、俺も背筋が寒くなった。
でも、そのおかげで、俺の悪戯の効果が上がるだろうと、俺はワクワクした。
動画が終わった頃、俺は飲み物を持ってくると言って、2人から離れる。
そして、固定電話に友達の一人の携帯番号を打ち込む。
すると、当然、友達の携帯が鳴り始める。
物凄くビビる2人の友人。
知らない番号からかかってきたと言って、ビビりっぱなしだ。
そりゃ知らない番号だろう。
だって、俺の固定電話からかけたのだから。
ビビッて出ようとしない友人に、俺は「ホント、ビビりだな」と鼻で笑って、通話ボタンを押す。
するとすぐに、プツっと切れた。
そんな俺の行動に、友人たちはすげえと褒めてくれる。
この悪戯は大成功をおさめた。
それから何事もなく数日が過ぎた頃。
俺は友達の家に、スマホを忘れてしまった。
取りに行くのが面倒くさいなと思っていたとき、ふと、あることを思い出した。
友達に電話して持ってきてもらおう。
そう思って、固定電話の再送ボタンを押した。
すると、ピザ屋に電話が繋がったのだった。
終わり。
解説
固定電話から再送ボタンを押したのなら、友人のスマホに繋がるはずである。
だが、ピザ屋に繋がったということは、この固定電話からは友人にかけていないことになる。
では、友人のスマホにかかってきたのは、誰からだったのか。
また、固定電話からかけたのであれば、語り部がスマホの通話ボタンを押したとき、あちらから切れるのはおかしい。
異世界へ行く方法
Aはこの世界に辟易していた。
代わり映えの無い、繰り返しの毎日。
仕事やダルい人間関係、希望を見いだせない未来。
かといって、自ら命を絶つという決意も出来ない。
そこでAは、「異世界」に興味を持ち始めた。
こことは違う世界に行くというのは、まさにAが望んでいることだった。
Aは色々と、異世界に行く方法を調べていく。
片っ端から、見つけた方法を試して見るが、一向に、異世界に行ける気配がない。
そして、Aは最後にエレベーターを使う方法を試すことにした。
エレベーターに乗って、まずは3階、2階、4階、2階、5階に行く。
この間に誰かが乗ってきたら失敗。
5階に行ったら、4階まで降りる。
その時に、若い女性が乗ってくる。
次に、また5階のボタンを押したときに、上に行かずに下へ向かう。
そして、1階についたときに異世界に行ける。
そういう方法だった。
一般的に知られている方法とは少し違うが、実際に行ったという書き込みが多いことで、Aはこの方法を信じた。
Aはこの方法を何度か試すが、どうしても、途中でエレベーターに人が乗ってきてしまう。
どうにかして、人が乗って来なさそうな建物を探すA。
そして、ようやくAは見つけることができた。
それは、廃墟となったビルだった。
今にも崩れそうなほど古くなった建物。
それなのに、なぜか、エレベーターが動くのだ。
ここなら、絶対に途中で人が入って来ることは無い。
そう確信して、Aはさっそく試すことにした。
エレベーターに乗り、3階、2階、4階、2階、5階に行く。
当然だが、その間、誰も乗って来なかった。
ようやく、ここまで成功したAの気持ちは高揚する。
そして、次に4階へと降りる。
ここで、若い女性が降りてくれば、ほぼ成功だ。
ドキドキしながら待っていると、4階で止まり、ドアが開く。
しかし、そこには誰もいなかった。
Aは失敗か、とため息をついた。
だが、つい、5階のボタンを押してしまう。
すると、エレベーターは一度大きく揺れた後、物凄い勢いで下へと向かって行く。
成功したのか!?
Aは喜んだ。
そして、エレベーターが1階に着いた時、Aは異世界に行くことに成功した。
終わり。
解説
Aは今にも崩れそうな廃墟のエレベーターで、この方法を試した。
1階に着いた時に異世界に行くことに成功したというのは、4階のところで、エレベーターのワイヤーが切れ、1階に落下したことで、Aは命を落としたということである。
また、古く、廃墟になっていたエレベーターだったため、安全装置も作動しなかったと考えられる。
獣害事件
山奥にある小さな集落に、ある青年が住んでいた。
その青年は集落の長の娘に恋に落ちる。
集落の長に気に入られるために、青年は長の狩りについていくようになった。
青年の狩りの才能は高く、すぐに、長に気に入って貰えた。
そんなある日、青年が傷ついた姿で狩りから戻った。
青年の話では狩りの途中に謎の獣に襲われ、一瞬のうちに長が連れ去られたのだという。
集落の男達は、総出で山に入って長を探したが、見つかることはなかった。
それから数週間、またも犠牲者が出た。
男の遺体の一部が山から見つかる。
再び、集落の男達は山に入った。
しかし、その隙を狙ってか、今度は集落が襲われてしまう。
襲ってきたのは巨大な熊で、数人がその犠牲になったのだという。
男達は集落を守る者と狩りをする者に別れ、巨大熊を追った。
すると、すぐに巨大熊と遭遇することになる。
また、数人の男が犠牲になってしまったが、無事に仕留めることに成功した。
その巨大熊を仕留めたのは、青年だった。
集落の者達は青年を称えた。
そして、青年は長の遺体が握っていたという、青年に譲るという手紙を集落のみんなに見せる。
青年は集落の娘と結婚し、新たなるお里なって幸せに暮らしたのだった。
終わり。
解説
長は一瞬のうちに連れ去れているはずなのに、どうして青年は「傷だらけ」になっていたのか。
また、なぜ、青年は見つからなかったはずの「長の遺体」が握っていた手紙を持っていたのか。
さらに、青年は最初、「謎の獣に襲われた」と言っている。
だが、青年は狩りに慣れているはずなので、熊を知らないわけがない。
つまり、長が連れ去られた事件と、集落を襲った巨大熊の事件は別と考えられる。
最初の長が連れ去られた事件は青年が犯人である可能性が高い。
青年は長に気に入られていたとはいえ、娘の「結婚」とは別の話だったのであろう。
「青年に譲る」という手紙は、「何を」譲るのかが書いていないため、もしかすると愛用の銃などの話なのかもしれない。
また、そもそも、青年は「娘に恋に落ちる」とあり、「恋人同士」ではなく、「一方的に好き」なだけだったということも考えられる。