■本編
最近、クマの出没の頻度が上がっているらしい。
登山好きな者にとっては不安しかない。
一応、クマ避けの鈴やスプレーなんかを所持しているが、心許ない。
一時期は登山をするのを控えようと考えたこともあったが、クマが出没しなくなるのいつになるかわからないし、いくら頻度が上がっているとはいえ、そうそう遭遇はしないだろう。
そう思って、連休中に登山に出掛けた。
比較的、クマが出ない場所を通れば大丈夫だろうと思っていると、運が悪いことに、クマと遭遇してしまった。
本当に運が悪い。
いつもそうだ。
起こって欲しくないと思ったことは大体起こる。
今までもずっとそうだった。
とはいえ、まだ襲われると決まったわけではない。
パニックにならず、ちゃんと対処できれば平気なはずだ。
まず、心掛けることは、クマから目を離さないことと、背中を向けないこと。
背中を向ければ、一気に襲い掛かってくる。
それだけは絶対に避けないとならない。
クマの目を見ながら、ジリジリと後ずさる。
クマはこっちを警戒しているのか、動こうとしない。
これなら逃げられそうだ。
後ろから、もう一頭、現れなければ。
そう思ったときだった。
後ろから、ガサガサという音がした。
なんてことだ。
またか。
起こって欲しくないと思ったことが起こる。
つまり、今度は後ろからもう一頭、クマが出たのかもしれない。
恐る恐る、後ろを振り向く。
だが、そこにいたのはキツネだった。
その姿を見て、安堵する。
いくらなんでも、もう一頭現れるなんて、そこまで運が悪いなんてことはなかったようだ。
終わり。
■解説
語り部は振り返ったことにより、クマから目を逸らし、背中を見せてしまっている。
次の瞬間には語り部はクマに襲われる可能性が高い。