■本編
田舎に遊びに行った時のこと。
俺は気晴らしに森林浴をするために、森林公園に行った。
行楽シーズンなのに、人が全くいない。
まあ、この辺はいつもそうだ。
公園といっても全然整備されていないし、ほとんど草原の広場みたいになっていた。
人混みが嫌いな俺としては、一人でいたいから、これでいいと思っていたのだ。
草の上に座って、ボーっとしていると、急に腹が痛くなってきた。
正直、その辺でするしかないかと覚悟したが、視界の端に建物が見える。
急いでその場所に向かうと、その建物はトイレだった。
ラッキーと思って入ってみた瞬間、気分は一転した。
公園が荒れ果てているのに、トイレが整備されているわけがなかった。
ボロボロで汚れ切った和式トイレ。
個室のドアも壊れて、半開きの状態のままになっている。
床のところも穴が開いていて、またがるのも一苦労だ。
正直、外でした方がマシなんじゃないかと思うレベル。
でも、せっかく来たので、我慢してここでするしかない。
そして、俺はまたがってから、このトイレが水洗ではなく汲み取り式だと気づいた。
トイレの中は深い深い穴になっている。
さっさと、やって出ようと思っていると、どこからか声がした。
「た……け……て」
俺は一気に鳥肌が立った。
このトイレはぼろいだけじゃなくて、幽霊も出るのか。
便意が一気に引っ込み、俺はすぐにトイレから出て、そのまま宿へと戻った。
次の日。
宿をチェックアウトして、帰ろうと思って外に出たら、警察官に話しかけられた。
俺は何も知らないと言って帰った。
あれから10年以上が経つけど、今でもあのトイレに行ったことを後悔している。
終わり。
■解説
トイレの中から聞こえた声は「たすけて」だった。
つまり、語り部の前にトイレに入っていた人間が、トイレの中に落ちてしまったと考えられる。
警察は行方不明者が出たことで、語り部に話しかけたというわけである。
何も知らないと言ったのは、最初にトイレに行った際に通報せずに見捨てたことをバレないように隠した可能性が高い。
つまり、語り部はまだ生きている可能性があったのに、見捨てている。