■本編
結婚して5年。
俺はようやく自分の家を手に入れることができた。
一軒家ではないが、高層マンションの15階。
家の窓から見下ろす夜景は本当に最高だ。
ただ、1つだけ問題がある。
それはエレベーターだ。
このマンションには1台しかなく、なかなか回って来ないこともしばしばだ。
しかも、乗れる人数は5人までと少ない。
朝の出勤時間なんかは、混雑して乗るまでに10分以上かかることがある。
そして、その日はちょっと寝坊してしまったから、いつもよりも急いでいた。
エレベーターの下へ降りるボタンを押しながら、来てくれと頭の中で必死に祈る。
すぐにエレベーターが来てドアが開く。
やったと思ったのも束の間、既にエレベーターの中には4人が入っていた。
ヤバいなと思いながらも、エレベーターの中に入ると、ビーッと音が鳴る。
定員オーバーだ。
本当に運が悪い。
俺は仕方なく、エレベーターを諦め、階段で降りることにした。
朝から、かなり疲れるが仕方ない。
下手をすればここから10分以上待たされる可能性もある。
階段を駆け下りていく。
そして、3階ほど駆け下りたときだった。
いきなり、ドンという音がして、マンション全体が揺れたような気がした。
1階まで降りたとき、まさに大騒ぎだった。
どうやらエレベーターが落ちたらしい。
ワイヤーが切れて一気に落下したのだ。
後で聞いたのだが、エレベーターに乗っていた5人全員が死亡したらしい。
結局、その日の会社は遅刻してしまったが、あのときもしエレベーターに乗れてたと思うとゾッとする。
亡くなった方には悪いが、定員いっぱいでよかった。
終わり
■解説
語り部が乗ろうとしたとき、エレベーター内には4人しかいなかったはずである。
だが、『5人』が死亡している。
ということは、エレベーターの上に誰かがいたということになる。
一体、その人間はエレベーターの上で何をしていたのだろうか。
もしかすると、その人間がワイヤーを切ったのかもしれない。