ピアニスト

意味が分かると怖い話

〈意味が分かると怖い話一覧へ〉

〈前の話へ:リュックサック〉

僕は最近ピアノを始めた。
お母さんが昔、プロのピアニストになりたかったけどなれなかったから、僕になってほしいみたい。

でもピアノは凄く難しい。
いくら練習しても全然上手くならない。
だから練習も面白くなくてやめたくなってきた。

学校の帰りに友達に誘われてショッピングモールに行った。
ビックリしたのは広場にピアノが置いてあって、自由に弾いていいって書いてあった。

友達に弾いてと言われて、試しに弾いてみた。
でも全然ダメだ。
譜面を見るのと、鍵盤の手を見るのとで大変で、ちゃんと弾けない。

そしたら杖をついたおじいちゃんがやってきて、「こうやって弾くんだ」とお手本を見せてくれた。
どうやったらそんなに上手く弾けるようになるのかって聞いたら「楽しんで弾くことが大事だ」って言われた。
楽譜も鍵盤も見ながらだと楽しく弾けないと言ったら、「弾いているうちに覚えれる」だってさ。

僕が楽譜も鍵盤も見ないで弾けるわけないって言ったら、おじいちゃんは笑ってこう言った。

「できるよ。だって私は元々目が見えないんだから」

そしておじいちゃんは目をつぶってピアノを弾き始めた。

本当だ。
おじいちゃんは目をつぶったままピアノを弾いている。

僕は練習したらおじいちゃんみたく弾けるようになるかって聞いたら、弾けるようになれると言ってくれた。

それでおじいちゃんは一枚のチケットをくれた。
『盲目たちの音楽祭』って書いてある。
おじいちゃんのように目が見えない音楽家の人が来て、演奏をするらしい。

チケットに書いてあった日に、その場所に行ってみた。
あんまり人は入ってなかったけど、ステージの上で杖をついた人たちが来ては音楽を演奏していく。

見ていたらおじいちゃんがステージにやってきた。
僕は大きく手を振ると、おじいちゃんも手を振り返してくれた。

そしておじいちゃんの演奏が始まる。
僕は自分が弾くときよりも緊張した。

でもおじいちゃんはあのときと同じように、ピアノを弾いている。

曲が終わると会場からは拍手が鳴った。
僕ももちろん拍手をした。

よし、僕も頑張って練習して、おじいちゃんみたいにピアノを上手くなろうっと。

終わり。

■解説

おじいさんは盲目のはずである。
しかし、語り部が手を振ったのに応えているのはおかしい。
ということはおじいさんは目が見えている。
つまりおじいさんは自分が盲目だと周りに嘘を付いている可能性が高い。