本編
幼稚園の頃、タカシくんっていう友達がいた。
幼稚園の中ではもちろん、幼稚園が終わった後や、日曜日とかもタカシくんの家に遊びに行っていた。
僕たちは凄く仲がよかった。
毎日、タカシくんと遊ぶのを楽しみにしていた。
だけど、あるときから、タカシくんは幼稚園に来なくなった。
お母さんにどうしたんだろうって聞いてみたけど、お母さんはわからないと言って教えてくれなかった。
僕は違う友達と遊ぶようになって、そのうち、タカシくんのことが気にならなくなった。
タカシくんは幼稚園の卒業式にも来なかった。
小学校に行って、僕はたくさんの友達ができた。
だから、タカシくんのことを忘れていた。
ある日、僕は卒業式で言う、卒業生からの返事の練習をするためにケイコちゃんの家に向かっていた。
そのとき、タカシくんの家の前を通りかかった。
僕はふと、タカシくんのことを思い出す。
顔を上げると、二階の窓からこっちを見ている誰かがいることに気づいた。
よーく見てみると、それはタカシくんだった。
あのときから全然変わっていないタカシくん。
僕は嬉しくなって、手を振った。
だけど、タカシくんは手を振り返してくれない。
僕のこと、忘れちゃったんだろうか。
今日はケイコちゃんの家に行く約束をしているから、今度の日曜に、タカシくんの家に行ってみよう。
終わり。
■解説
語り部は卒業式の練習をすると言っている。
つまり、小学6年生になっているということになる。
だが、タカシには『あのときから変わらない』と言っている。
タカシに最後に会ったのは幼稚園である。
つまり、タカシは成長していないと言うことになる。
窓から見ているタカシは何者なのだろうか。