雪山

意味が分かると怖い話

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本編

最近、登山にハマりだした。
なんていうか、一人で黙々と頂上を目指して登るというのが心地いい。

今のようなネット時代は、本当に疲れる。
休みの日でも、家にいても、SNSで常に人と関わっている。

じゃあ、見なければいいって話なんだけど、人ってそう簡単に割り切れるものじゃない。
それが簡単にできれば苦労しないって。

けど、電波の届かないところに行けば、強制的に関わりを切ることができる。
知り合いには山に登るって言っておけば、返信しなくても、電波が届いてないんだって思ってくれる。

最初はこんな感じで山に登ってたんだけど、いざ、登り始めると楽しい。
休みの日にはほぼ毎回、登りに行っている。
登山はストレス発散にもなるし、本当にいい。
毎日、登りたいくらいだ。

でも、冬になって、色々な山が閉山になってしまった。
登りたいのに、登れないなんて、逆にストレスだ。

だから最近は登山が禁止されているところでも、入って登っている。

もう何回も登った山だし、俺は登山初心者じゃない。
雪が積もっていたって、登りきる自信がある。
というより、雪山も経験してみたい。

俺は雪山用の装備を買い揃えた。
さすがにテントまでは買わなかった。
日帰りの予定だし。

準備万端で、山に入る。

冬の山はやっぱりいつもとは違う。
同じ山なのに、新鮮な感覚がして面白い。

雪で足を取られそうになるけど、それも緊張感が出て、何とも言えない。

そんなこんなで、雪の上を歩くのには慣れてきたけど、最悪な事態になった。

どうやら迷ってしまったらしい。
風景がいつもと違って見えたから、間違えてわき道に入ってしまったみたいだ。

辺りも暗くなってきたし、これ以上、動くのは危険だろうか。
仕方ないから、ここで一晩を明かそう。

なるべく縮こまって座り、寒さを堪えていたが、我慢できないくらい寒い。
手足の感覚もなくなってきた。
このままじゃ、凍え死んでしまう。

そこで、俺はとりあえず、動くことにした。
運動することで熱を発生させようと考えたのだ。

スクワットとか、腕立てとか、色々な運動を手当たり次第にやってみる。

あんまり意味がないかと思っていたけど、急に体が暖かくなってきた。
もう熱いくらいだ。

熱くて耐えられなくなり、俺は服を脱ぐ。
うん。涼しい、涼しい。

終わり。

■解説

雪山で多少動いた程度で体が熱くなるのはおかしい。
語り部は低体温症によって、暑い場所にいるかのような錯覚に陥っていると考えられる。
これは矛盾脱衣といわれるもので、このまま語り部は凍死する可能性が高い。