本編
紅葉を見たい。
ふと、そう思って登山をすることにした。
ひとりでじっくり見たいから、あえてクマ出没で入山禁止の山に登る。
元々、登山する人なんて皆無の山だから、ここなら絶対に人に会わなくて済むはずだ。
まさしくケモノ道を登っていく。
ちょっと辛いけど、紅葉が綺麗だし、来てよかった。
もう少しで頂上に着くけど、暗くなり始めたし、今回はここまでにしておこう。
慎重に降りていたつもりだったけど、滑って斜面から転げ落ちてしまった。
そのときの衝撃で足に怪我をした。
この足じゃ動くことは難しい。
かといって、助けを呼ぼうにも携帯も通じないし、山に人がいるとも思えない。
絶望的だ、と思っていたら遠くから「おーい」という男の声が聞こえてきた。
よかった。
奇跡的に人がいたんだ。
俺は「こっちだー! 助けてくれー」と叫んだ。
すると「おーい」という声がドンドンと近づいてきてくれた。
終わり。
■解説
語り部はあえて人が来ない山を選んでいる。
そして、この山にはクマが出ている。
子グマの鳴き声は男性の「おーい」という声に似ている。
つまり、近づいてきているのは人間ではなくクマの可能性が大きい。