本編
その新米医師は一人で深夜の当直をしていた。
いつもは子供が熱を出したとか、酔っ払いが運び込まれるくらいだったが、その日だけは違った。
高速道路で車が正面衝突をするという事故が起こったと連絡が来た。
運び込まれた患者は瀕死の重傷を負っていて、どう見ても手術が必要だった。
だが、新米医師は手術をしたことがなく、ましてやこんな大掛かりな手術をすることは無理だと判断する。
そして、近くの病院に運び込むように救急隊員に指示した。
しかし、その病院でも断られ、その次の病院でも受け入れ拒否をされた。
5件目も断られた新米医師は、諦めて自分で処置することにした。
少し時間がかかったが、新米医師は何事もなく処置を完了させる。
だが、その日からその新米医師は悩むようになり、医師を辞めてしまった。
終わり。
■解説
最初は大掛かりな手術は無理だと判断しているのに、何事もなく処理を完了させたということに違和感がある。
そして、新米医師は処置を完了させたのであって、手術をしたとは言っていない。
つまり、患者はたらい回しにされている間に亡くなり、新米医師は死亡診断の処置をしたということになる。
助けられなかった患者のことで気に病み、医師を辞めてしまったのである。