立体駐車場

意味が分かると怖い話

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本編

最近はずっと仕事に追われていた。
深夜の2時くらいに家に帰り、朝の7時には会社に向かう。
もちろん、休日なんてなく、土日だろうが祝日だろうが関係なく働いていた。
もう何連休になるのか覚えていない。
1ヶ月以上はずっと休みがなかったことは間違いない。
 
けど、ようやく仕事も落ち着き、久しぶりの休みを貰えることになった。
 
本当は寝て過ごしたいところだが、そうはいかない。
生活必需品を買っておかなければならないからだ。
 
買い貯めするときには、車を持っておいてよかったと思う。
いつもは家と会社を往復するだけだが。
 
車で30分くらいのところに、かなり大きなショッピングモールがある。
そこに行けば、大体の物は揃う。
それでも買い物には結構時間がかかるから、朝の10時には家を出た。
 
ショッピングモールに到着すると、既に人で溢れかえっていて、立体駐車場もほとんど空きがない。
どこか停められるところがないかとウロウロしていると、98番のスペースが空いていた。
少し入り口から遠いが、贅沢は言えない。
 
俺はすぐにそこに停めて、ショッピングモールの中に入っていった。
 
当たり前だが、中も混んでいて、商品を選ぶのも一苦労だ。
生活用品や食材、衣服なんかも買って、車へと戻る。
 
鍵を開けて車に乗り込み、エンジンをかける。
すると、そのときにあることに気付いた。
 
なんと助手席に女性が座っていた。
もちろん、見知らぬ女性だ。
あっちも驚いた顔でこっちを見ている。
 
俺は思わず「うわっ!」と叫び、「何してるんだ!?」と問い詰めた。
すると女性は俺を睨みつけ、「あなたこそ、なんなんですか!? これ、私の車ですよ!」と返された。
 
俺は唖然とした。
そんな俺に女性は畳み込むように詰め寄って来る。
 
「私は98番に停めたんです」
「俺だってそうだよ。確かに98番に停めたのを覚えてる」
「……もしかして、鏡越しだったんじゃないんですか?」
「え?」
「ほら、ここの駐車場にはミラーが多いんです。それを見て勘違いしたんじゃないんですか? 本当は86番だったんですよ」
 
そう言われると自信がない。
 
「早く出て行ってください。警察を呼びますよ」
 
そう言われて、俺は渋々車から出て、86番の駐車場へと向かった。
 
だが、そこには俺の車はなく、全然違う車が停まっていた。
 
終わり。

■解説

語り部は車のカギを開け、エンジンまでかけている。
もし、女性のいうように他人の車なら、それは無理なはずである。
つまり、その車は語り部の物で、女性は車上荒らしをしていたのかもしれない。

 

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