本編
私は大学進学を機に晴れて一人暮らしをすることになった。
それまではずーっと、家で両親の厳しい目の中、生活していた。
門限は6時で、周りの子たちはまだ遊んでいるのに、一人帰らないといけない寂しさ。
もちろん、友達だけの旅行も許して貰えなかった。
そんな煩わしさから、ようやく解放されたのだ。
とはいえ、やっぱり女の子の一人暮らしに多少は不安になる。
しかも、この辺には変出者が多いらしい。
近所を歩いていると、よく「変出者注意」という看板を見る。
本当に怖い。
だから、私はベタだけど、洗濯物を干すときには男物も一緒に干すようにした。
極力、女の子一人で住んでいないと思わせるような工夫をする。
本当は早く彼氏を作ればいいんだけど、そうそう上手くはいかない。
サークルに入ったり、合コンに行かないと。
そんなあるとき、なんと下着が盗まれてしまった。
ベランダに干してたところを狙われたようだ。
くそぉ。2階だからって油断した。
とにかく、警察に連絡しないと。
こういうときはすぐに動かないと、相手を増長させてしまう。
盗んでも大丈夫だと思われたりしたら、大変だ。
警察官が来てくれて、私は事情を話した。
すると警察官は笑って、「あなたは大丈夫ですよ」だって。
なにさそれ。
こっちは被害出てるんだけど。
警察官は一応見回りはしてくれると言ってた。
そして、「下着は干さない方がいいかもね」だってさ。
いやいや。
部屋干ししろっての?
私、部屋干しは生乾きになるから嫌なんだよね。
外に干さないなんてあり得ない。
それにしても、盗まれた分は補充しないと。
面倒くさいけど、買いに行くか。
うーん。
まだ買うのに抵抗があるんだよなぁ。
でも、仕方ないか。
防犯のためだもんね。
終わり。
■解説
下着を買うのに抵抗があるというのが、少し変である。
つまり、下着泥棒に盗まれたのは、男物の下着。
なので、警察官は女性である語り部に大丈夫と言っている。