■本編
これはあんまり話したくない話だ。
それは彼女と夜のドライブに行っていた時のこと。
突然、彼女がこんなことを言い出した。
「ねえ、知ってる? この辺、幽霊が出るんだって」
「あはは。よくある話だな」
「本当だって。あ、ほら、あそこ見てよ。あの標識」
彼女が指差した標識にはビックリマークしかないものだった。
「あれって、幽霊注意の看板なんだって」
「ホントかよー。ウソくせー」
「いや、ホントに出るらしいよ。女の人の幽霊」
「ふん。幽霊が怖くて、夜の山道を走れるかよ」
「きゃーーー! あれ! ホントに出た!」
「出たからってなんだよ。そんなの通過しちまえばいいだけだって」
そして俺はアクセルを思い切り踏んだ。
その後、ドンと大きな衝撃が走った。
終わり。
■解説
幽霊なら車に衝撃は走らないはずである。
つまり、語り部は幽霊ではなく本当の人間を轢いてしまった。
また、最初に語り部は「思い出したくない話」と言っている。
もしかすると、語り部は轢いてしまった後、その死体を山の中に隠し、飄々と過ごしているのかもしれない。