気づかれない男

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■本編

大勢でファミレスとかに行くとさ、店員に忘れられる奴っているよね。
4人で行ってるのに、おしぼりとか水とか貰えないの。
 
俺がそれ、よくやられるんだよね。
なんでなんだろ?
 
ファミレスとか食い物系の店に行くと、よく見落とされるんだよ。
映画館とか遊園地とか、そういうところだと忘れられたりしない。
まあ、当たり前だけど。
 
で、いつも通っているファミレスに4人で行ったんだ。
 
席に案内されてメニューを選んでいると、やっぱりコップが3つしか来ない。
いつも通りで3人に笑われる。
 
またか。
 
俺はため息交じりに、通りすがりの店員に「水、足りないんだけど」と言う。
その店員は見たことなかったし、急に話しかけられてオドオドとしていたから、きっと新人なんだろう。
 
その新人は慌てて「すぐお持ちします」と言って、奥に走っていった。
そして、数分後。
その新人はコップを持ってきた。
2個も。
 
俺たちはそれを見て、「今度は多いよ!」と笑った。
 
次にボタンを押して店員を呼ぶ。
今度は注文だ。
友達が注文し終え、今度は俺というところで、店員は「かしこまりました」と言って奥に帰ってしまう。
 
またも忘れられて、みんなに笑われる。
 
もー。面倒くさいな。
 
もう一度、ボタンを押して店員を呼ぶ。
今度は、また新人の子がやってきた。
 
俺はその子にハンバーグ定食を注文する。
だが、注文しても新人の子は動かない。
 
「注文は以上だけど」
 
そう言うと、首を傾げながら奥へと戻ってしまった。
なんとも変な新人を雇ったものだ。
教育するのが大変そうだな、と他人事ながら思う。
 
さすがに注文した料理を忘れられることはなく、俺たちは料理を食べ、満足して店を出ようとする。
 
すると、あの新人の子が俺の方へやってきて、俺の服を掴んだ。
 
あれ? もしかして、俺に一目惚れとか?
連絡先交換してほしいとか?
 
そう思って期待していると、そうではなかった。
当たり前だけど。
 
その新人の子は少しだけ顔をしかめてこう言ったのである。
 
「あの……無視するなんて可哀そうだと思います」
 
何の話かまったくわからない。
 
なんのことか聞こうと思ったら、その子は奥の方へ戻ってしまう。
 
なんなんだよ。
いつも無視されてるのは俺の方なんだけどな。
 
そんなことを思いながら、店を出ようとしたら、ゾクッと背筋が寒くなった。
 
終わり。

■解説

新人の子はコップが足りないと言われて、2つ持ってきている。
そして、注文も、語り部が終わってもその場を動こうとしなかった。
さらに最後は「無視をするのは可哀そう」と言っている。
つまり、そのテーブルには、もう一人、新人だけしか見えない者がいたのではないだろうか。

 

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