本編
私の周りでレトロ風の物というのが流行っている。
レトロ風というのは、実際に古い物じゃなくて、古い商品をリメイクした物だ。
日用品なので、中古のものを使うのは抵抗があるけど、古い商品の新品なので気にせずにつかえるところが人気らしい。
私はあんまり興味がなかったんだけど、会社の同僚がやたらと勧めてくるからなんとなく気になってきた。
そこで休みの日にお店に行ってみた。
だけど気に入ったものがなくて、何店か回ってみたんだけどやっぱりいいのが見つからなかった。
諦めて帰ろうと思ったとき、ふと古いアンティークショップを見つけた。
中に入ってみると、結構、色々な商品が並んでいた。
アンティークショップということで骨董品のものしかないのかと思っていたけど、意外と新品のものも置いてあった。
そんなとき、一本の櫛が目に入った。
半月型の木で出来た櫛。
なんだかその模様がレトロ感がして、すごく私の心に刺さった。
でも、人が使ったものを使うのはやっぱりちょっと嫌だ。
櫛には値札も、新品のシールもついてない。
多分、骨董品なのだろう。
それでもやっぱり気になる。
新品の物だったら買いたいのにと思ったのだ。
だから、店のおじいさんにこの櫛がアンティークなのか新品なのかを聞いてみた。
新品だったら欲しいんですけど、これはどっちですか、と。
するとおじいさんは新品だと言った。
私は嬉しくなって、つい買ってしまった。
新品だったせいで、結構値段が高かったんだけど。
まあ、仕方ないかな。
さっそく、私は櫛を使ってみる。
使い心地も凄くいい。
いい買い物をしたと嬉しくなる。
でも、その日からなんか変なことが起こるようになった。
私の髪は肩くらいまでの長さなのに、櫛には明らかに長い髪が絡まるのを見つけるようになる。
その髪は排水溝にも絡むようになり、蛇口から赤い血のようなものが出るようになったりした。
極めつけには、寝てると金縛りになり、私の横で長い髪の女の人が鬼のような形相でこっちを見ながら髪を梳かしている。
そんなことが頻繁に起こり、私は精神的に病んだ。
お寺に行って、お祓いしてもらったけど、一向に状況は変わらない。
そんなあるとき、霊能力者がうちに来た時、私の櫛を見て驚いたような声を出した。
櫛には九十九神がついていて、このまま持っていると危ないとのことだった。
お気に入りだったが、私はその人に櫛を渡した。
それからは怪奇現象がピタリと止んだ。
もうレトロ風の商品には手を出さないと決めた。
終わり。
■解説
九十九神は物を99年(長年)使い続けることで精霊が宿るというものである。
語り部は櫛を新品で買っているので、本当であれば九十九神が宿るはずはない。
つまり、アンティークショップのおじいさんは嘘をついて語り部にいわくつきの櫛を売ったことになる。