本編
娘夫婦はとても仲が良い。
そして、娘の旦那はとてもできた人間で、妻に先立たれた私も大切にしてくれる。
なにかあれば、家に招いてくれる。
私にとって、家族と言える人間はもう、娘と娘の旦那しかいない。
本当に、娘はこの旦那と結婚してくれてよかった。
今日も娘の家にお呼ばれした。
なんでも、旦那が部長に出世したから、そのお祝いパーティーを開くということで、私を呼んでくれたのだ。
娘の料理に舌鼓をうち、楽し気な雰囲気に、私はお酒が進んでしまった。
酔って帰るのも危ないと言われ、その日は娘の家に泊まることになったのだ。
急な泊りになっても、旦那は嫌な顔一つしない。
本当に出来た人間だ。
食事が終わると、映画を見ようという話になった。
DVDで久しぶりに映画を見る。
内容は遺産相続がきっかけで親戚中が殺し合いをするという内容だった。
私はその映画の内容を見て、つい笑ってしまった。
「うちはこうはならんだろうなぁ。私にはこれと言った財産もないし、金なんかで殺し合いにはならんだろ」
そういう私の言葉に、娘も娘の旦那も笑いながら頷いた。
だが、そんなとき、娘の旦那がこう切り出した。
「財産がないということは、逆にいうとなんかあったときは大変ですよね」
「そうねぇ。うちも貯えが多いってわけじゃないし……」
娘もその言葉に頷く。
そう言われてしまうと、私が何かしらの財産を残していないことが気まずくなる。
「もし、俺たちになにかあったら、誰がお義父さんを見ることになるんだ?」
「え? 確かにそうね。うちには親戚もいないし」
「いや、そんなことを気にするんじゃない。大体、私より先にお前たちになんかあることなんてないさ」
「でも、万が一ってことが……」
急にその場が暗くなってしまう。
そんなとき、ふと娘の旦那がこういい出した。
「生命保険に入っておこう。俺と加奈は、受取人をお義父さんに。お義父さんは受取人を加奈にするっていうのはどうかな?」
その言葉に娘も同意する。
そうだな。
私の年から生命保険をかけたところで大した金額にはならないだろう。
だが、私が死んだときに少しでも娘夫婦にお金が入るというなら、それがいい。
私も同意し、私たちはそれぞれ生命保険に入った。
それから数ヶ月が経ったある日。
なんと娘が死んだと連絡が入った。
なんと事故死らしい。
デパートの階段から落ちて打ち所が悪かったということだ。
私は悲しんだ。
大切な娘が死に、生きる気力さえなくなってきた。
多額の娘の生命保険のお金が降りてきたが、そんなことはもうどうでもよかった。
こんな金なんて返すから、娘を返して欲しい。
最近はすっかり体力が落ち、食事もろくにとらなくなった。
早く娘と妻のところに行きたい。
毎日、そう考えるようになった。
終わり。
■解説
語り部の娘が死んで多額の保険金が降りたと言っているところから、旦那がかなり高額の保険に入れていたと思われる。
その保険金は語り部の元に降りてきたが、この語り部が死んだ後は、息子である娘の旦那が相続することになる。
語り部の娘が死んだとき、保険金の受け取りが父親になっていたため、旦那は怪しまれずにすんだ。
つまり、娘の旦那は巧妙に保険金殺人をした可能性が高い。