本編
男は不動産会社に勤めていて、社内でも1、2位を争うほどの優秀な営業マンだった。
しかし、そんな男が担当している中で、数年間残っている不動産があった。
そこは郊外ではあるが、決して悪い場所ではない。
最初は色々な人間が、なぜ売れないかと不思議がっていたが、男自身は特に気にしていないようだったので、そのことを指摘する人間はいなくなった。
そんなある日。
一人の老人が男の元へ訪れる。
既に天涯孤独になってしまったその老人はある程度の金持ちで、郊外に家を建ててそこでゆっくり余生を過ごしたいと思っていた。
そこで老人はある土地を売って欲しいと言ってきたのだ。
それは、男が担当している、あの売れない不動産だった。
だが、男はここの土地は売れないと言い、違う土地を紹介した。
確かに男が進めてくる土地は魅力的な場所が多かったが、老人は一度断られたことで、逆にその土地に興味を持つ。
老人は持ち主の希望の2倍を出すと持ち掛けるが、男は持ち主に確認も取らずに断ってしまう。
だが、老人の気持ちは『気になる』から『疑惑』に変化する。
そこで老人は一度、その不動産を後にした。
老人はその土地の所有者を調べ、なんと不動産会社を通さずに持ち主に会いに行った。
次の日。
老人は再び、不動産会社に行く。
そこで、男に対して「持ち主から売って貰える許可を得た」と言って、詰め寄った。
男は「わかりました」と言い、不動産を買うための書類が必要だという。
すると老人は既に全ての書類を作成していた。
男は老人にその土地を売った。
そして、それから数年が経つ。
しかし、その土地に新しい家は経っていない。
終わり。
■解説
老人は新しい家を買うために土地を買ったはずである。
それなのに家を建てていないのはおかしい。
これは老人が「家が必要なくなった」と考えると納得できる。
では、なぜ、家が必要なくなったのか。
それは老人が死んでいるからである。
不動産の営業マンである男はその土地に人に見つかってはいけないものを埋めた。
なので、誰かに買われることは避けなければならない。
そこで、『天涯孤独』である老人に権利を売った後、殺害し、この土地に埋めた。
これでこの土地は『売りには出されていないことになる』ので、もう誰かに買われる心配はなくなったというわけである。