本編
俺には霊感がない。
だから、幽霊とかそういうオカルトは全く怖くない。
本当に怖いのは人間だということを、俺は知っている。
けど、都合がいいことに世の中には事故物件っていうものがある。
その部屋で人が死んだという理由で家賃が安くなるのだそうだ。
俺からしたら、なんで?って思っちゃうね。
前の住人が死んだからなに?って感じ。
俺に関係ない奴がどこで死のうと気にする必要はないだろ。
だから、俺は事故物件に住んでいる。
家賃が安くていいね。
学生の俺には大助かり。
でもさ、それでもやっぱり家賃で万金かかるわけじゃん?
俺なんか、部屋にはホント寝に帰るだけだからさ。
それなのに万金払うのはちょっともったいないって思うわけよ。
そしたらさ、見つけたの。
良いところをさ。
そこは廃アパートなんだけど、噂によると心霊スポットらしい。
幽霊の目撃情報が多くて、肝試しに行っていなくなった奴もいるみたい。
それも、結構な数。
幽霊の目撃情報があまりにも多いのと行方不明になった奴が何人出たみたいで、今では肝試しで来る奴もいないって話。
しかも、その噂はかなり有名で、ホームレスなんかも立ち寄らないんだってさ。
警察とかが中に入らないようにって、柵とか作ったらしんだけど、見回りもほとんどしてないんだってさ。
まあ、人が寄り付かない場所なら、見回りもしないのは当然だよね。
ってことはさ。
使えるんじゃね?ここ。
俺は幽霊とか気にしないし、部屋は寝れればいいから、どんなに古くても気にならない。
しかもここなら家賃もかからないし。
シャワーとかは友達ん家で借りればいいから、問題ない。
ってことで、俺はさっそくそこに住むことにした。
その廃アパートに行ってみると、意外と綺麗だったことに驚く。
掃除しなきゃと覚悟してたけど、これなら大丈夫そうだ。
いつの間にか手についていた赤いペンキを洗面所で洗った後、俺はアパートを後にした。
そして、布団を持ってくる。
寝転がって目を瞑ってみると、本当に静かだ。
本当にいい物件を見つけた。
しかも、これでタダなんて、幸運過ぎる。
浮いた家賃の金で何買おうか、なんて考えているうちに、俺は眠りについていた。
終わり。
■解説
元々は幽霊スポットで人がたくさん来ていたはずなのに、部屋の中が綺麗というのは違和感がある。
また、語り部は洗面所で手を洗っているが、水が出るのはおかしい。
つまり、ここには幽霊ではなく『誰か』が住んでいる可能性が高い。
さらにこの場所で何人も『失踪者』が出ている。
そして、ここにはホームレスや警察さえも立ち寄らない。
語り部は最初に言った通り、『本当に怖いのは人間だということ』を、身をもって体験することになる。