本編
今日は会社で新年会があった。
年末は忙しくて、忘年会が出来そうになかったので、新年会にしたというわけだ。
仕事も落ち着いたということもあり、俺は会社の忘年会が終わった後、仲のいい同僚と二次会に行った。
忙しさからの解放と、久しぶりのお酒ということで少々飲み過ぎてしまった。
帰るとき、同僚にタクシーで帰った方がいいと言われたが、今ならギリギリ終電に間に合う。
それでなくても、二次会で結構、出費したので少しでも金は浮かせたい。
俺はヨロヨロとしながらも駅へと向かった。
久しぶりの酔いは実に心地よかった。
柱に寄りかかって電車を来るのを待つ。
数分が経つと電車がやってきた。
ドアが開くと一気に乗客が電車に乗り込んでいく。
もちろん、俺もその人の波に乗って電車へと乗り込む。
ギュウギュウ詰め。
この時間はいつもそうだ。
座れることなんてほとんどない。
せっかくの酔いが冷めそうだとイラつきながらつり革を掴む。
重いため息をついて、ふと顔を上げると、あることに気づく。
――あ、逆だ。
酔っていたことと、いつもと違う駅からだったということもあり、家とは逆の方向の電車に乗ってしまったことに気づく。
うわ、最悪……。
次の駅で慌てて降りる。
はあー、ついてないな。
でも、すぐに気づいたからまだマシか。
これでずっと気づかずに乗ってたらと考えたら、ゾッとする。
駅のベンチに座って逆側の電車が来るのを待つ。
10分くらいすると電車が到着したので乗り込む。
椅子に座り、ホッと一息をつく。
明日が休みでよかった。
これは二日酔いで、明日は動けないだろうな。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
終わり。
■解説
最初の電車に乗った時に、既に『終電ギリギリ』だったはず。
つまり、既に終電は過ぎてしまったはずである。
そして、語り部は「この時間(終電)」はいつも電車が混んでいると言っている。
なのに、容易に椅子に座れている。
今、語り部が乗っている電車はなんなのか?
それは本来存在していない電車なのかもしれない。