【洒落怖】山奥の無人バス

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ある日、怪談や都市伝説が好きなSが、こんな噂を聞いてきた。

山奥に無人バスが通っている、というものだ。

その話を聞いたとき、正直、怖くもなく、当たり前の話だろと思った。

「山奥なら、誰も乗ってなくてもおかしくないだろ」

そんな俺の言葉にSは首を大きく横に振った。

「いや、その山にはさ、別に何もないんだよ」
「何もないって、どういうことだ?」
「だから、本当に何もない。村とか、施設とか、家とか、そういう建物が一切ないんだって」
「なら、なおさら、おかしくないじゃん。そんなバスに人が乗るわけないし」
「ならさ、そもそも、なんでそんな場所にバスが通ってるんだよ?」

Sの指摘に、俺は言葉を詰まらせる。
確かに、誰も乗らないなら、『運航する意味』がない。
ガソリン代や人件費だってかかる。
それに、誰も乗らないなら、運航を止めても文句は出ないはずだ。

「それにさ、そのバスが来るのが、深夜の2時なんだよ」
「それを先に言えよ」

深夜バスでも2時に到着するなんてものはない。
そうなってくると、Sのいう通り、単なる人が少ないバスじゃなくて怪談の方に近い話になってくる。

「でさ、今度の休みに、そのバス停に行ってみないか?」

俺はSほどじゃないにしても、そこそこ怪談が好きだったりする。
Sに付き合って、いろいろと心霊スポットに行ったり、怪談ライブイベントとかにも参加したりしている。
ただ、最近はバイトやテストなんかで忙しかったから、そういうのには行けてなかった。
だから、Sの誘いに断る理由はなかった。

そして、その週末、Tも含めて3人で無人バスが来るバス停に向かうことになった。
バスが来るのは深夜だから、俺たちは昼寝をしてから向かう。
俺が車を出し、運転をする。
Sが助手席で、Tが後部座席だ。

山奥ということで、車が通れる道がないかと思ったが、ちょうど一台分が通れるほどの砂利道が続いている。
その道を進んでいくと、Sが聞いてきた通り、バス停があった。

それはまさしく田舎のバス停って感じで、木で作られた簡易的なものだった。
屋根とベンチがあり、雨の日でも大丈夫な作りになっている。
きっと昼間にくれば普通のバス停にしか見えないだろう。

こんな山奥に、こんなバス停があるんだと驚いたが、それ以上に驚いたのは、なんと既に他の人間がいたことだった。
1人は俺たちよりも少し上の、20代中盤くらいの男と、老夫婦の、計3人だ。
深夜にバス停で人が待っているという光景だけでも、結構なホラーだった。

唖然とする俺とTをしり目に、Sが車を降りていく。
そして、なんと老夫婦の隣に座って、何かをしゃべり始めた。
俺たちはハッとして、すぐに車を降りてSの方へ向かう。

すると、Sと老夫婦は楽しそうに会話をしていた。
まるで孫とでも話すように楽しそうに、穏やかに話している老夫婦。
一瞬でも、幽霊じゃないかと疑った自分がバカみたいだった。

「あらー、お友達も一緒なのかい?」

おばあさんが俺たちの方を見て、笑顔を浮かべる。
屈託のない、真っすぐな笑顔だ。

「若いのにね……」

おじいさんが少しだけ悲しそうな顔をする。

「何言ってるの。若いからこそってこともあるでしょ」

そうおばあさんがたしなめると、おじいさんは「そうだな」と納得したようだった。

Sの話では、この老夫婦はやはりSが聞いてきた噂を聞いてやってきたらしい。

「私も、この人もこういう話が好きでね」
「噂が本当だったら、嬉しいんだがな」

おばあさんとおじいさんが笑顔でしゃべっている。
意外な気がしたが、確かに怖い話が若者しか興味がないわけじゃない。
年をとっても、好きな人はいるだろう。

それにしても夫婦で心霊スポットめぐりとは珍しいし、ずいぶんと仲がいいんだと思った。

そして、Sが妙に、この老夫婦と仲良くなっていた。
なんでも、Sが孫に似ているらしい。
老夫婦がしばらく会ってなかったから、孫に会えた気がしてうれしいと言っていて、まんざらでもなさそうな顔をするS。

さらに老夫婦はもう少ししたら、孫に会えるから楽しみとも話す。

そのときだった。

いきなりプシューっと、バスのドアが開く音がした。
見ると、いつの間にかバスが停まっている。

すると、若い男が立ち上がって、バスへと乗り込んでいく。
それに続くようにして、老夫婦も立ち上がる。

俺は「え? 乗るんですか?」と聞くと、おばあさんは悪戯っぽい笑顔を浮かべて「噂が本当か確かめたくて」なんてことを言う。
随分とアグレッシブな人だと思っていたら、Sも「俺も乗ってみるわ」と言い出した。

いくらなんでもヤバいと止めたが、「後ろから車でついてきてくれ。なんかあったら、すぐに携帯で連絡するからさ」と言って、乗ってしまった。
その瞬間、バスが出発する。

俺とTは仕方なく、バスの後をついていくことにする。

バスはゆっくりめに走っていき、そのバスの後ろをぴったりと車でついていく。
そして、15分くらい走ると、バスが停まる。

また、バスの停留所があった。
今度はバス停には誰もいない。

俺たちはSと老夫婦がバスから降りてくると思っていたが、一向に降りてこない。
だから、Sの携帯に電話をしようとしたときだった。

バスのドアが閉まり、再びバスが出発する。

俺たちは慌てて車に乗り、バスを追う。
助手席のTは、Sに電話をかけるがつながらないようだった。

すると今度はTが警察に電話しようしたときだ。

いきなり目の前のバスが消えた。

俺たちは車を停めて、外に出て辺りを見渡すがバスはどこにもいない。
というより、道自体がぷっつりと途切れていた。

すぐに警察に連絡して、来てもらった。
だが、悪戯だと思われて、怒られただけだった。

そもそも、あの無人バスが停まったバス停が消えていたのだ。

とりあえず、Sが行方不明になったことだけは受理されたみたいだ。

そして、それから3ヶ月が経つが、Sはいまだに見つかってない。
一体、Sはどこに連れていかれてしまったのだろう。