【洒落怖】二人のお父さん

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当時、僕は変な記憶があると思い込んでいた。
それはお父さんが2人いるという記憶だ。

別にその場に、お父さんが2人いるというわけじゃない。
お父さんと一緒に遊んでいるときの記憶なんだけど、お父さんの顔が全然違うんだ。

体格とか雰囲気は一緒なのに、顔だけ違う。
どっちのお父さんも、いつもニコニコと笑っている顔が記憶に残っている。

でも、片方のお父さんは、ときどき、怖い顔で僕を睨んでいた。
これも記憶だから、もしかしたらただの記憶違いかもしれないけど。

あれは僕が小学4年生のときだった。
夏休みに家族で海に遊びに行ったんだ。

浜辺でテントを張ってキャンプするってことで、僕はかなりはしゃいでいた。
海についたらすぐに水着に着替えて、海に入ろうと走り出す。

本当は先にテントを立てないといけなかったのに。
最初、お父さんはテントを立てるのを手伝ってくれと言ったが、お母さんが「私が立てておくから、一緒に行ってあげて」と言った。

お父さんは分かったと言って、僕と一緒に海に入った。
僕はただ、浜辺で波が来るのを見て面白がってただけだったけど、お父さんが「泳げるようになったか?」と言って、僕の手をつかんで、海のほうへと引っ張っていく。
その力が結構強くて、僕はちょっとだけ怖かった。

でも僕は体育の授業で泳げるようになったから、それをお父さんに見せたかった。
先生からもすごいって褒められたから、きっとお父さんも褒めてくれると思ったんだ。

だけど、なんだか違った。

お父さんは僕が泳げるのを見ると、なんだか顔をしかめた。
そして、「どこまで泳げるか見せてくれ」と言って、海の奥のほうへ泳ぐように言った。
すでに足が届かない場所だったのに、もっと奥へ行けって言われて、僕はすごく怖かった。

でも、僕が泳がないでいると、お父さんの顔がどんどんと怖くなっていく。
だから僕は勇気を出して、泳いだんだ。
波が来て、泳ぎづらかったけど、頑張って10メートルくらい泳いだ。

それで、そろそろ戻らないとって思って、お父さんのところに引き返した。
合計で20メートルくらい泳いだと思う。
これなら、きっとお父さんもすごいって褒めてくれると思った。

そしたら、お父さんは「ちっ」って言って、僕の頭をつかんで、海の中に押し込んだんだ。
僕はびっくりした。
何とかお父さんの手をよけて、息を吸うために水面から顔を出した。

だけど、お父さんはさらに僕の頭をつかんでまた海の中に押し込む。
何度も、お父さんの手を避けて、海面から顔を出す。

誰か助けてって叫ぼうとしたけど、口の中に水が入って声が出せない。

そのときだった。
浜辺に立っているお母さんと目が合った。

僕はお母さんが助けてくれると思った。
でも、お母さんはそれを黙って見ていた。

なんで?
僕は混乱した。

そしたら、遠くで、男の人の声で「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」という、拡声器の声が聞こえてきた。
それでお父さんは僕の頭をつかむのをやめて、手をつかんで浜辺へと連れて行ってくれた。

それからのお父さんはいつも通りに優しい顔に戻っていて、浜辺でたくさん遊んでくれた。

でもその日の夜。
お父さんが寝たのを確認して、お母さんにお昼の海でのことを聞いた。

だけどお母さんは「お父さんがそんなことするはずないじゃない」って言った。
逆に「変な誤解されるから、そういうこと言わないの」って注意された。

そのキャンプが、僕にとっての家族の最後の思い出だ。

後のことはあまり覚えてない。
僕はおばあちゃんの家に住むことになって、お母さんともお父さんとも、それからずっと会ってない。

そして、僕が20歳になったころ、おばあちゃんに内緒で、いろいろと調べてみた。
それで、いろいろと納得した。

お母さんは再婚していた。
最初のお父さん、つまり僕の本当のお父さんは、僕が生まれる前に事故で他界していた。
だから、あのキャンプでのお父さんは、再婚相手の人だったのだ。

そして、なんと、その頃、僕には生命保険がかけられてた。
きっと、事故に見せかけて僕を殺そうとしたんだと思う。
しかも、お母さんもグルで。

おばあちゃんが、お母さんやお父さんのことを話したがらないのも、そういうことだったんだ。

今、お母さんとお父さんがどうなっているのかは知らないし、調べようとも思わない。
記憶の中のお父さんは優しいけど、僕を殺そうとした殺人鬼だ。

この先もかかわろうとは思わない。