【洒落怖】娘の描く絵

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妻は娘を生んだと同時に亡くなった。
それから男手一つで、四苦八苦しながら娘を育ててきた。

仕事と育児の両立。
それは正直、うまくやれたとは思っていない。
仕事でも昇進して、忙しい時期が続いた。
娘にも、ずいぶんと寂しい思いをさせただろう。

そんな中、娘が幼稚園に通えるようになった。
これで、随分と楽になった。

幼稚園でも友達ができたようで、表情もずっと明るくなった。

あるとき、娘が幼稚園で描いた絵を見せてくれた。
画用紙いっぱいに、人の顔が描いてある。

一生懸命描いたと笑う娘は、できばえに満足なのか、上機嫌だ。

確かに4歳の絵とは思えないくらい、ちゃんと描けているとは思う。
口も歯と舌の部分で、色をかえたりと、色々な色を使って描いている。

でも、目の部分が黒目一色の丸で描かれている。
そこだけが、幼稚園児が描くみたいに一色なので、妙に目立つ。
そのせいか、少しだけ不気味な雰囲気に見えた。
ただ、そんなことを言って、娘を落ち込ませるわけにはいかない。

俺は娘の頭を撫でて、「凄い上手いな。将来は漫画家さんかな?」と言うと、娘は凄く嬉しがった。

それからは、結構、頻繁に絵を持ってくるようになった。
そして、どんどん絵が上手くなっていく。

描いてある絵はいつも同じ人だと思う。
毎回、目が黒丸で描いてある。
これだけは、ずっと変わらない。

「これは誰?」と聞くと、いつも「まるのお兄ちゃん」と答える。

きっと、幼稚園の先生かだれかだろうと、そのときは思った。

そして、あるとき、娘を迎えに行った時のことだ。
ふと、先生から「まるのお兄ちゃんって、どんな人なんですか?」と聞かれた。

俺は「え?」と返してしまった。
てっきり、幼稚園の関係者だと思っていたからだ。

だけど、幼稚園にはそういう人はいないのだという。

さらに、先生は顔をしかめて、こんな話をした。
先生は、娘が描く絵に、ときどき、アドバイスをしていたのだという。
そのときに、目も、白目と黒目で色を変えると、上手く見えると教えたそうだ。
だけど、娘はそれからも、ずっと目の部分は黒一色の丸でしか描かないらしい。

なんでか聞いてみると「こうだから」としか答えなかったみたいだ。

絵のことも気になるが、それよりも、娘は家の外で遊ぶことはほとんどない。
だから、幼稚園以外に知り合いはいないはずだ。
いったい、「まるのお兄ちゃん」とは何者なんだろうか、ということの方が気になる。

そう考えていると、娘が「今度はおとうさんを描いた」と言って、絵を見せてくれた。

その絵では、ちゃんと、目が白目と黒目の2色を使って描かれている。
そこで、俺は気づいた。
「こうだから」というのは、その「まるのお兄ちゃん」の目が無く、ただの『真っ黒な丸い穴』だからなのだと。

そして、その「まるのお兄ちゃん」は、ずっと娘と会っている。

娘に「まるのお兄ちゃんって誰?」と聞き、家の中を指さされたらと考えると、俺は恐ろしくて聞けないでいる。