〈前の話へ:穴場の海にいたもの〉 〈次の話へ:トモヤが見たお葬式〉
これは電車の運転士をしている友人から聞いた話。
電車の運転士といえば、飛び込みとかに遭遇する人が結構いるみたいだが、幸い、その友人は一度も遭遇したことはないらしい。
ただ、一度だけ不気味な体験をしたことがあると話していた。
友人が言っていたのはこんな話だ。
それはなんてことのない、普通の平日の昼近くのことだった。
いつも通りに運転をしていたら、500メートル先の線路の上に5歳くらいの子供がしゃがみこんでいるのを見つけた。
別によそ見をしていたわけじゃない。
それどころか、ちゃんと線路を見ていた。
それなのに、その子供は突如現れたかのようにいきなり出てきたようみ見えた。
慌てて緊急停止をしたが、間に合わず、ドンというぶつかった音と衝撃を感じた。
そのときは本当に目の前が真っ暗になった。
うわ、やってしまった。
飛び込みなら別にいいというわけではないが、よりによって子供を轢いてしまうなんて。
絶望感で、その場に座り込んでしまいたくなった。
なにしろ、自分にも同じくらいの年の子供がいる。
ショックを受けるなという方が無理な話だ。
とはいえ、そのまま呆然としているわけにも行かず、確認しに、電車を降りた。
見ると、電車にべっとりと血が付いている。
吐きそうになるのを我慢しながら、電車の下を覗き込む。
すると不思議なことに、何もなかった。
いくら子供だからといって、まったく死体が残らないほど潰れるなんてことはあり得ない。
なにかしら、身体の一部が残っているはずだ。
それなのに、そういうのがまったくない。
それからすぐに無線で連絡して、警察や救急車にも来てもらって、1時間以上捜索したけど、やっぱり何も見つからなかった。
あるのは血だけだった。
単なる見間違いということも考えられるが、血が残っているのでその可能性も低い。
それでも、それから3時間ほど捜索をした後、車両を清掃することになった。
一応、会社からはその日は休むように言われた。
一体、何だったのかと思いながらその場を引き上げようとした時だった。
電車から5メートルほど離れたところにこぶし大の妙な石が転がっているのを見つけた。
べっとりと血がついていることから、どうやら現場にあったのが、車輪に弾かれて飛んで行ったんだとわかった。
だが、よく見るとその石は小さく、震えるように動いていた。
手に取って見てみたのだが、その瞬間、あまりにも衝撃的で思わず声も出せずに、その場で固まってしまった。
その石は綺麗に真っ二つになっていたのだが、その断面のところに子供の顔が張り付いていた。
張り付いていたというよりは、浮き出ているような感じだった。
石の中に小人がいて、顔を出したかのような状態だ。
ただ、その顔は苦悶に満ちていて、血の涙を流している。
小さく、「いたい、いたい」と言う声も聞こえた。
だが、その声も、石の震えが止まると同時に消えてしまった。
その光景を見て、固まっていたら、「どうしたんだ?」と声を掛けられた。
そのときに思わず、石を落としてしまった。
説明するためにその石を拾おうとしたが、いくら探してもその石は見つからなかった。
だから、きっと何かの見間違いだと思うことにした。
次の日も休みを貰い、家でテレビを見ていたら、あるニュースが流れた来た。
「行方不明の〇〇ちゃん」
そのテロップと一緒に移った子供の写真。
それは、昨日見た、石から浮き出ていた子供の顔と一緒だった。
これで、友人から聞いた話は終わりだ。
その子供が見つかったかどうかはわからないらしい。
調べようとも思わなかったし、もう関わりたくなかったみたいだ。
その友人は今も電車の運転士を続けている。
幸い、まだ電車の事故には遭遇してないらしい。

