謝りたいことがあります。
テリス、ベキ、カイドビ、ゲキユシ。
この中で聞き覚えのある動物はいますか?
もし、いるという人がいたら、連絡くれませんか?
ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんです。
おそらく、ほとんどの人は聞いたことがないって言うと思います。
ですが、この動物は本当にいるんです。
いるどころか、誰でも知ってるくらい有名なんです。
いえ、違いますね。
有名でした。
でも、今はもうどの図鑑にも載ってません。
これはきっと私のせいです。
本当にすみません。
謝って済む話じゃないかもしれないですけど、本当にすみませんでした。
でも、私も何が何だかわからないんです。
やろうと思ってやったわけじゃないんです。
本当です。
だって、私はカイドビが凄く好きだったんですから。
あれは私が小学2年生の時のことでした。
クラス、というか世間ではぷっくりシールというのが流行ってたんです。
覚えはないですか?
立体感のある、樹脂でできたシールです。
当時は妙に盛り上がっていたみたいで、お店でも品切れしているところがほとんどでした。
だから、その頃、ぷっくりシールは流行っていたけど、なかなか手に入りづらいという状況だったんです。
そこで、私は買えないなら、作ればいいんじゃないかって考えたんです。
ぷっくりシールが人気とはいえ、別に何でもいいってっわけじゃないんですけどね。
『なんの』ぷっくりシールかが問題なのに。
その頃は小学生だったので、そこに気づけないのはしょうがないとは思いますが。
私は夏休みの自由研究で、ぷっくりシールで『動物園』を作ることにしました。
図鑑を見ながら、動物たちのぷっくりシールを作っていったんです。
最初は10匹分くらいでいいかな、なんて思ってたんですけど、作り始めると思いのほか面白くて気づいたら1日中作っていた日もありました。
それで、夏休みが終わるくらいには、結局、100匹分くらいはある、大動物園になってしまいました。
それは学校でも評価されて、なんと金賞をもらったんです。
まあ、学校の中だけの賞なんですけど。
それでも、あのときはすごくうれしかったですね。
やったことが、ちゃんと認められたって。
それで私の、ぷっくりシールの動物園はロビーのところに、ほかの賞のものと一緒に飾られることになりました。
少し照れ臭かったですけど、私は休み時間のたびに見に行ってたりしてました。
そんなあるときです。
ぷっくりシールの1枚が、首のところを引きちぎられて落ちているの見つけました。
それはベキのシールでした。
それは引きちぎったというよりは、嚙みちぎったような感じだったんです。
すごくショックでした。
でも、そのとき、私はまた作り直せばいいと思って、家に帰ったあと、ぷっくりシールを作る道具を出して、図鑑を取り出したんです。
いくら一回作ったものでも、図鑑を見ながらじゃないとさすがに作れません。
だけど、おかしいんです。
ないんです。
ベキのページが。
一回作ったから絶対にあるはずなんです。
何回も何回も調べました。
絶対に見落としなんてしてません。
図鑑も同じものです。
おかしいと思って、お母さんに聞いてみました。
ベキのページがないって。
そしたら、お母さんはこう言いました。
「なに? ベキって?」
びっくりしました。
ベキなんて、幼稚園児でも知ってる動物です。
ほかで言うとネコやイヌ、キリンとかと同じくらい有名なのに、お母さんは知らないとか言い出したんです。
次の日、私は図書室に行きました。
全部の動物図鑑を調べましたが、ベキを見つけることはできませんでした。
どうなってるんだろ?
そう思っていたら、また、私のぷっくりシールが引きちぎられて、落ちてました。
ゲキユシです。
そしたら、今度はゲキユシのページがなくなってました。
ベキのことを調べた時にはあったはずなのに、なくなってたんです。
お母さんも、お父さんも、クラスの人も全員、ゲキユシのことを覚えてません。
私は怖くなって、先生にぷっくりシールで作った動物園を返してほしいとお願いしました。
だって、また動物がいなくなったら困るから。
先生は困った顔をしてましたが、ちゃんと返してくれました。
私はすぐに、このぷっくりシールの動物園を箱に入れて、クローゼットの奥にしまいました。
これで誰かがイタズラで、ぷっくりシールを引きちぎる心配はなくなったはずです。
もう大丈夫と思いました。
それで、それから3年くらい経ったときでした。
私はテリスが消えていることに気づいたんです。
誰に聞いても、どこを調べても、テリスの名前が出てきません。
私は思いました。
まだ終わってなかったんだって。
でも、クローゼットの奥にしまってあるぷっくりシールの箱を出して調べようとは思いませんでした。
確認するのが怖かったですし、そもそも見たところで、どうしようもありませんから。
テリスが消えてから、今で10年くらい経ちました。
消えている動物は大体、6種類くらいだと思います。
今後、もし、あなたが好きな動物が消えてしまったら、本当にごめんなさい。
でも、そうなったら、あなたがその動物が好きだったことも忘れているはずなので。
ただ、私が本当に謝りたいのは、そこじゃありません。
実はぷっくりシールなのですが、『動物園』のつもりで作ったんです。
つまり、見る人がいるということです。
はい。
そのぷっくりシールの動物園には、お客さんである私、人間もいるんです。

